八月、八の宮の一周忌に当たって、宇治では薫と阿闍梨がその仕度に関わっている。二人の姫君は、仏前にたく香飾りの組紐の結び(総角、アゲマキ)を編んでいる。御簾の端から総角の房を目にした薫は、“紐結び”に掛けて、恋心を次の歌に託して大君に訴えた。
総角に長き契りを結びこめ
同じ所に縒(ヨ)りもあはなん (薫)
大君は、うるさいと思いながらも返歌する。ただ大君は、妹・中の君には人並みの幸福を得させたいと考え、むしろ中の君を薫君へ と考えているふうである。姉君は、中の君の麗容な姿を眺めているだけで人生の悲しみもみな忘れてしまうほどであった。良人に幻滅を覚えさせることはあるまいと、親身に妹君を思う姉であった。
喪が明けて、薫は待ちきれぬ心で宇治へ行き、声を掛けるが、大君は、病と称して、薫に会おうとしない。薫は、弁の君に相談、大君の寝室へ薫を導く手はずを整えた。弁の君の手引きで、両姫君の寝所に忍び入るが、気配を察した大君は、静かに起きて、中の君を残して帳台を出る。
大君でないことを悟ったが、分別のできた薫は、中の君を可憐な人と相手を見るだけで、語り明かした。薫は、以後、両姫君ともに、妻として望まないことにすると心を決めた。
一方、匂の宮は中の君に求婚しており、薫と弁の君の画策により、両者の結婚は成功します。しかし結婚後、匂の宮は、母・明石の中宮に諫められ、宇治から足が遠のく。さらに匂の宮には夕霧の六の君との縁談話のある事を聞き、大君は絶望し、病は重くなる。
十一月、病に伏している大君は、阿闍梨が、薫との話で、父君が成仏できずに苦しんでいるという夢を見たと聞く。父君の成仏の妨げさえしていると、大君は、自責の念から重体に陥り、薫に看取られながらこの世を去る。匂の宮は母君を漸く説得、中の君を京に引き取る許しを得ることが出来た。
本帖の歌と漢詩
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総角に 長き契りを 結びこめ 同じ所に 縒(ヨ)りもあはなん
[註] 〇総角:アゲマキ、揚巻の別名; 〇縒る:よる、ねじりあわせる、
(大意)総角結びの中に紐がしっかりと縒り結ばれているように、あなたと私が 末永く寄り添えるようになりたいものだ。
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<漢詩>
求婚 求婚 [下平声一先韻]
应知総角妍, 应(マサ)に知るべし 総角(アゲマキ) 妍(ケン)なるを,
紐整緊緊編。 紐 整(トトノ)い 緊緊(キンキン)と編む。
願倆携長久, 願(ネガ)う 倆(フタリ) 携えて長久に,
相依保固緣。 相依(ヨリソ)い 固い緣(エニシ)を保たんことを。
[註] 〇妍:巧みである、美しい; 〇緊緊:ぴったりとしている; 〇倆:二 人:〇相依:寄り添う。
<現代語訳>
プロポーズ
総角(アゲマキ)の結びは 巧みで非常に美しく、
紐がよく整いしっかりと編まれていることがよくわかる。
願わくは この総角の結びの如くに、二人は幾久しく合い携えて、
寄り添い、固い縁を保って行きたいものです。
<簡体字およびピンイン>
求婚 Qiúhūn
应知总角妍, Yīng zhī zǒngjiǎo yán,
纽整紧紧编。 niǔ zhěng jǐn jǐn biān.
愿俩携长久, Yuàn liǎ xié chángjiǔ,
相依保固缘。 xiāngyī bǎo gù yuán.
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大君の返歌:
貫きもあへず もろき涙の 玉の緒に ながき契りを いかが結ばん (大君)
(大意) 貫きとめることもできないような砕けやすい涙の玉の緒 -いつ死ぬかも分 からない私の命-ですのに、末長い契りなどどうして結ぶことができましょ う。
【井中蛙の雑録】
○四十七帖・[総角]の薫 24歳秋~冬。
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