愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題350 金槐和歌集  武士の やそうじ川を 鎌倉右大臣 源実朝

2023-07-24 09:19:49 | 漢詩を読む

青年・実朝の歌である。宇治川の流れが速いことに言寄せて、早くもこの一年も過ぎ去らんとしている と。年の瀬になると 老いの身の誰しもが抱く想いではあると推察するのであるが。

 

歌の上二句:“武士の やそうじ川を”を、漢詩ではそっくりそのまゝ七言絶句の起句として活かした。

 

ooooooooooooo 

  [歌題] 歳暮

武士(モノノフ)の やそうじ川を 行(ユク)水の  

  流れてはやき 年の暮かな 

      (『金槐集』・冬・343; 『新勅撰集』巻六冬・93)  

 (大意) 宇治川を流れる水の流れの何と速いことか 同じように時のめぐり 

  も早く もう年の暮を迎えようとしている。  

  註] 〇武士のやそ:“うじ”を言い出すための修辞; 〇武士のやそうじ川:

  一つの成語と見てよい。  

 ※ 上三句:「流れてはやき」を言うための序。○宇治川:近畿地方を流れる

  淀川の京都府内での名称。 

xxxxxxxxxxxxxxx 

<漢詩> 

   歲暮       歲暮(セイボ)     [下平声一先韻] 

武士八十宇治川、 武士(モノノフ)の八十(ヤソ)宇治川(ウジガワ)、 

活活河水若飛然。 活活(カツカツ)として河水 飛ぶが若(ゴト)く然(シカリ)。 

荏苒宛転時運去、 荏苒(ジンゼン)と宛転(エンテン) して 時は運(メグリ)去(ユ)き、 

弥弥日月逼残年。 弥弥(イヨイヨ) 日月 残年に逼(セマ)る。

  註] 〇武士の八十:宇治(川)を言い出すための修辞; 〇宇治川:川の名;

  〇活活:水が勢いよく流れるさま; 〇荏苒:なすことのないまま 

  歳月が過ぎるさま; 〇宛転:転がるようにして巡りゆくさま; 

  〇残年:年の暮、年末。   

<現代語訳> 

  年の暮 

武士(モノノフ)のやそ宇治川、

河水 飛ぶが如くに勢いよく速く流れている。 

歳月も何らなすことがないまゝ転がるように過ぎて、

今や年の瀬を迎えようとしている。 

<簡体字およびピンイン> 

   岁暮              Suìmù

武士八十宇治川、 Wǔshì bāshí yǔzhì chuān,      

活活河水若飞然。 huó huó hé shuǐ ruò fēi rán.  

荏苒宛转时运去、 Rěnrǎn wǎn zhuǎn shí yùn qù, 

弥弥日月逼残年。 mí mí rì yuè bī cán nián. 

ooooooooooooo  

 

実朝の歌は 人麻呂の次の歌の本歌取りの歌であるとされている。

 

もののふの やそうじ川の あじろ木に 

  いさよう波の ゆくえしらずも  

    (柿本人麻呂 『万葉集』 巻三・264 ;『新古今集』 巻十七・1650) 

 (大意) 宇治川の網代木(アジロギ)に流れを遮られて ゆらゆらと揺れ動いて

  いる波 何処に行くのであろうか。  

    註] 〇網代木:網代を支える杭。

 

なお、斎藤茂吉は 実朝が掲歌を詠むに当たって、上記の人麻呂の歌に加えて、次の歌も参考にされたのではないかとして挙げている(『歌論六 源実朝 斎藤茂吉選集 第十九巻』岩波書店、1982) 

 

おちたぎつ 八十氏(ウジ)川の 早き瀬に 

  岩こす波は 千代のかずかも (源俊頼朝臣 千載集 賀・615)

 (大意) 激しく落ちて流れる宇治川の早瀬の 岩を越す波の数は無数で 

  あり、君の千代なることを言祝いでいる。  

 

山吹の 花のつゆそふ たま川の

  流れてはやき 春のくれかな (後鳥羽上皇 風雅集 春下・281) 

 (大意) 山吹の花に露が降りた井手の玉川では 水の流れは速い、同様に 

  時の流れも速く、今や春の終りを迎えようとしている。 

  註] ○井出の玉川:歌枕。京都府綴喜(ツヅキ)郡井手町を流れる川、 

  六玉川のひとつ。奈良時代に橘諸兄(タチバナノモロエ、684~757)がヤマブキ

  を好んで 邸宅に植えるだけでなく、玉川沿いにも植えたと言われている。

  現在なお、玉川の両岸約1,5kmに山吹約5,000株が植栽されていて、

  花時(4~5月)の光景が素晴らしい とのことである。 

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