イソップ寓話のストーリの癖として、素直に善行(たとえば正直であることとか)を勧めているものは多くないようです。むしろ、正直過ぎることで騙されたり、思慮の浅さによって不幸な目に会ったり、という形で忠告してくれています。
そういったものが多い中、何となくタイプが違う話として印象に残ったものを2つ。
85 子豚と羊
仔豚が羊の群にまぎれこんで草を食んでいた。ある時、羊飼に捕まったので、泣き叫び逆らっていると、羊たちは仔豚が泣くのを咎めて、
「わたしたちもいつも捕まっているのに、泣きわめいたりしないでしょう」と言った。
それに対して仔豚の言うには、
「僕と君たちとでは、捕まる意味が違う。君たちが引ったてられるのは羊毛か乳のためだが、僕の場合は肉のためだ」
身に迫る大変さの程度が全然違うのですが、そういう相手の気持ちは結構気づかないものです。
322 蟹と母親
「斜に歩いちゃだめよ。濡れた岩場で横さらいはいけません」と母親が注意すれば、子蟹の言うには、
「お母さん、まず先生が真っすぐ歩いてよ。それを見てするから」
こちらは、いつの時代でもいずこも同じという感じです。