本書は、ブルー・オーシャン戦略の「策定」についての論述に加えて、その「実行」に向かう上での課題についても多くのページを割いて触れています。
たとえば、「実行」にともなう組織面の問題点は、以下のように「4つのハードル」として示されています。
(p199より引用) 戦略実行にともなう組織面の4つのハードル
- 意識のハードル : 現状に浸りきった組織
- 経営資源のハードル : 限られた経営資源
- 士気のハードル : やる気を失った従業員
- 政治的なハードル : 強大な利害関係者からの抵抗
これらの指摘は確かに現実的なものです。
そして、これらのハードルに対抗する方法の一つとして「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」を紹介しています。
(p198より引用) ティッピング・ポイント・リーダーシップ・・・の核心にあるのは、どのような組織でも、一定数を超える人々が信念を抱き、熱意を傾ければ、そのアイデアは大きな流行となって広がっていく、という考え方である。このような現象を引き起こすためのカギは、拡散ではなく集中にある。
すなわち、全方位的に対応するのではなく、影響力のあるファクタ(影響力のある人・組織等)を集中して攻めるのです。
ちなみに、“ティッピングポイント(Tipping Point:小さな変化が大きな変化を生み出す点)”は、「あるアイデアや流行もしくは社会的行動が敷居を越えて一気に流れ出し、野火のように広がる劇的瞬間のこと。(マルコムグラッドウェル)」と定義されています。また、マーケティング理論では、アーリーアダプターからアーリーマジョリティーへいく時点で、“ブレークスルー(Breakthrough:不連続な拡大時期)”が発生すると言われています。
つまり、ティッピング・ポイントとは、利益メカニズムにおいて急激に利益が上昇するポイント、収穫逓増が働き始めるポイント、即ち経営資源を投入し続けるべきポイントを意味しているのです。
さて、「ハードル」に話を戻して1点。
ブルー・オーシャン戦略実行にあたって、「従業員」がハードルになるケースがあげられています。この本では、その対処方法として、「従業員の知性や感性」を認めた「公正なプロセス」の遂行が提示されています。
当然ではありますが、戦略は策定時点から実行を意識したものでなくてはなりません。企業活動における実行は、「社員のアクション」そのものです。
(p241より引用) 公正なプロセスを柱にすえて戦略の策定を進めれば、最初から実行段階を見すえて戦略を決めることになる。
ここでの「公正なプロセス」というのは、オープンベースな参加型プロセスのイメージです。具体的には、戦略の策定フェーズにおいても可能な限り社員を巻き込んで検討を進めることがそれにあたります。
「実行」されない「戦略」は全く無意味であり、考えるだけ時間の無駄です。
「考える」に際して関係者を巻き込んでおくと、現実に即した戦略の策定ができるとともに、実行段階での事前コンセンサスも得られるというわけです。
まさに、「一石二鳥」の効果です。