セネカは「心の平静について」の中で、事にあたる場合の「三箇条」を示しています。
(p83より引用) われわれがまず第一に吟味すべきは自分自身であり、次は、今から始めようとする仕事であり、またその次は、仕事の相手とか仕事の仲間ということになろう。
まず、主体である「自分」を知るということです。
最も分かっているつもりで、実は多くの場合誤解しているのがこの「自分自身」です。
(p83より引用) このうち、なかんずく大切なことは自分自身の性質を正しく検討することである。というのは、得てして自分は自分を実力以上に買い被るものだからである。
次に、「対象」の見極めです。
このあたりは、孫子の「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」に通じる普遍的箴言です。
(p83より引用) 次には、今から始めようとする仕事そのものの内容を正しく検討すべきである。そしてわれわれの力量と、今企てようとしている仕事とを比較検討すべきである。行為者の力量のほうが、仕事の内容を常に上回らねばならぬからである。運搬人の力に余る重荷が当人を圧しつぶすことは必定である。
さらにセネカは、その仕事に関わる「人」にも着目します。
セネカは、「周りの人間」を「自己の時間」への干渉物と捉えているようです。
(p84より引用) また、特に人間を選ばねばならぬ。果して彼らはわれわれの生活の一部を費すに値する人間であろうか。あるいは、われわれの時間の犠牲が彼らには分かっているであろうか。中にはわれわれの親切を自分勝手にわれわれの負債にしてしまう人間もあるからである。
相手次第で、自己の時間の価値が倍増したり、逆に時間が浪費されたりするのです。
ただ、そういう中でも、「周りの人間」に係る別の価値である「友情」にも言及しています。
(p85より引用) しかし、何と言っても、心に喜びを与えてくれるのは、真実な楽しい友情に較ぶべきはないであろう。・・・言うまでもなく、われわれはできる限り、利己心のない人を選ぼう。
真の友との付き合いは、自らの「心の平静」に導いてくれます。
逆に「心の平静」を乱すものは最大の原因は「財産」だと言います。
セネカは一説には莫大な富を築いたとも伝えられています。そのセネカの言です。
(p87より引用) 次に財産のことに移ろう。それは人間の苦難をもたらす最大の原因である。・・・財産を持たないほうが、失うよりもどれほど苦痛が軽いか。貧乏には失う原因が少ないだけ、それだけ苦悩も少ないことを知らねばならぬ。
「心の平静について」の最後でセネカが薦めている示唆は、2000年近くを経た現在でもまさにそのまま受容できます。
(p115より引用) 心はいつも同じ緊張のうちに抑え付けておくべきではなく、時には娯楽に興ずるもよい。・・・カトーは公務に疲れた心を酒で和らげた。・・・心は休養によって、前よりも一層よき鋭さを増すであろう。・・・心が休みなく働くことから生ずるものは、或る種の無気力と倦怠感である。
セネカの「ワークライフバランス」です。
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人生の短さについて 他二篇 価格:¥ 1,050(税込) 発売日:1991-06 |