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運を天に任すなんて ― 人間・中山素平 (城山 三郎)

2021-06-14 10:48:30 | 本と雑誌

 この前、西和彦さんの「反省記」という本を読んだのですが、その中で西さんの生き方に大きな影響を与えた人物として中山素平さんが紹介されていました。
 本書は城山三郎さんによる「中山素平さんの評伝」です。

 中山素平(1906年(明治39年)3月5日 - 2005年(平成17年)11月19日)さんは、日本興業銀行頭取・経済同友会代表幹事等を歴任された日本を代表する銀行家。評論家の草柳大蔵さんが名付けた「財界の鞍馬天狗」の異名は有名です。

 本書で紹介された城山さんが描き出す中山素平さんの人となりやエピソードは、どれもスケールが大きくそれでいてとても人間的なものばかりなので興味はつきません。
 その中からひとつだけ中山さんの考え方の基本が現れているトピックを書き留めておきます。

(p222より引用) 世間的に功成り名遂げた人にはまた、日本経済新聞に「私の履歴書」という花道も用意されるが、中山は得意のしつっこさで辞退し続けている。
「うっかりすると、自慢話になるから。何でも自分のことをよくしようということは、やらんほうがいい。それに、本当のことを書けば、存命の方に迷惑がかかるからね」

 終生、叙勲を断り続けたのも同根の信念ですね。見事な姿勢だと思います。

 さて、本書を読み通して特に印象に残ったくだりを二つ。
 ひとつめは、社会人類学者中根千枝さんに対し、中山さんが自分自身を評して語った言葉。

(p227より引用) 「無私ではなく、欲もある。しかし、自分中心ではない」

 もうひとつは、中山さんではなく土光敏夫さんに係るエピソード。

(p170より引用) 会長から退いた翌月、中山は土光敏夫を団長とする訪ソ経済使節団に加わった。「文藝春秋」誌に、草柳大蔵の「財界の鞍馬天狗」が出て、旅先で話題になったのは、このときのことである。
 土光は早合点して、中山のために憤慨したのだが、それとは別に、中山を驚かせたことがある。
 ホテルで、団長室の隣りに居る中山に、土光が声をかけてきた。
「きみ、洗濯物どうしてる。ぼくがついでに洗ってやるよ」
 入浴する際、土光はいつも肌着など手洗いしていたのであった。

 さすがに土光さん、ここまで徹底していたんですね。中山さんといい勝負です。

 

 

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