本書で紹介されているパウエル氏のアドバイスにリアリティがあり実践的である理由は、すべてパウエル氏の体験の中で醸成されたものだからです。
その中でも殊更説得力があるのは、パウエル氏の「失敗」から得た教訓を語っているくだりです。
たとえば、2003年、サダム・フセイン政権を崩壊させた「イラク進攻」におけるアメリカの判断を顧みてのコメント。
(p203より引用) この勝利はすばらしい成功であるとともに大きな問題の解決でもあると皆が思っていた・・・勝利後になにをしなければならないのか、誰もほとんど考えていなかったのだ。・・・
我々が引きおこす変化がイラク国民にどのような影響を与えるのか、また、イラクの社会構造にどのような影響を与えるのか・・・イラク国民は、・・・自由を手に入れても不平は収まらず、逆に反目や対立が激化。・・・何年ものあいだ、希望的観測で欠陥戦略を進めてしまったのだ。
まさにその時重要な立場にいたパウエル氏の語る教訓はとても重いものがあります。
(p203より引用) まず、解決策を検討する場合、何段階か先の副次効果までよく検討しなければならない。また、これで解決できると思う対策に到達したときには、それが本当に解決策なのか、それとも、将来に禍根を残す希望的観測なのか、自問自答しなければならない。
重要な決定であればあるだけ、その直接的効果の大きさに注意が集中してしまい、その他のことが瑣末な事象に見えてしまうことは確かにあります。また、「手段の目的化」の陥穽に陥り易くもなるのです。改めて心しなくてはなりません。
さて、本書を読んでの感想ですが、一言で言えば、開陳されているパウエル氏のアドバイスは私にとって素直に腹に落ちるものばかりでした。
その中でも特になるほどと感じたものを、最後に書き留めておきます。
「『第1報』に注意せよ」の章にあるパウエル氏の「第1報対応のチェックリスト」です。
(p166より引用)
・常識的に変だと感じないか? 深呼吸をしたり目をこすったりしてみよう。
・進行中のほかのことと矛盾はないか? その出来事に特別な状況や前後関係はないか?
・チェックにどれだけの時間が使えるか?
・どうすれば確認できるか? スタッフにやらせろ! 電話をかけろ!
・第1報が正しく、確認で対応を遅らせた場合のリスクやコスト、失われるチャンスは?
・第1報がまちがっており、あわてて対応してしまった場合のリスクやコスト、失われるチャンスは?
・なにがかかっているのか?
・時間切れだ! 動きはじめろ! 探しつづけろ!
最初の、「違和感」を感じる直観は、数多くの経験を積むことによってでしか獲得できないのでしょう。
そして、もうひとつ感じたこと、それは、パウエル氏の“真っ当な姿勢”でした。
もちろん、自分自身の生き方に自信と誇りを持っており、それは、本書の語り口に明瞭に表れているのですが、それ以上に、氏の思いやりに溢れ包容力に富む言葉には大いに感じ入るところがあります。
(p291より引用) 子どもたちがなにを見ているのかわからないが、・・・彼らは常になにかを見ており、見たものを常に評価している。彼らに豊富な経験をさせてあげれば、なにかいいものをつかんでくれるはずだ。自分たちの人生やほかの人の人生をよくするなにかをつかんでくれるはずだ。
最終の「第六章 人生をふり返って」の中の「若者は見ている」で紹介されているエピソードは特筆に価しますね。
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