著者のコリン・パウエル氏は、政治家としてはジョージ・W・ブッシュ政権時の国務長官、軍人としては、陸軍大将・統合参謀本部議長を歴任したスーパーエリートです。
本書は、パウエル氏によるリーダー論、アメリカでもベストセラーになったとのことです。が、「リーダー論」というレッテルは本書の内容を正しく捉えたものではありません。
パウエル氏自らの体験から生まれた箴言はもちろん氏自身の信条を表したものですが、パウエル氏が大切にしている言葉やエピソードから、その人柄・価値観が伝わってきます。
たとえば、パウエル氏の“13カ条のルール”として知られている中の「9.功績は分けあう」の章で紹介されている心理療法士の言葉です。
(p39より引用) 功績は皆で分けあい、非難はひとりで背負う。そして、おかしくなった理由を探し、そっと直す。「自分の行為の原因を自分以外に求めたとき、それは理由でなく言い訳になる」・・・どのような人も心に刻むべきものだと思うが、特にリーダーにとって大事な言葉だろう。
パウエル氏の経歴を語るとき、しばしば「黒人初の・・・」という接頭句が付くことがあります。マイノリティーとしての痛みを知っているパウエル氏は「思いやり」の人でもありました。
(p74より引用) 親切な人といくじなしや軟弱者とは違う。親切とは弱さを示すものではなく、自信を示すものだ。親切で思いやりがあると皆に思われていれば、厳しい決断をしても受けいれてもらいやすい。なぜそういうことをしているのか、理解してくれるからだ。・・・
昔から言われているように、「世界にとってあなたはひとりの人にすぎないかもしれないが、ひとりの人にとってあなたは世界になりうる」のだ。
とはいえ、やはり軍人としてまた行政官としても頂点を極めた人物だけに、「判断プロセス」における基本的なプロトコルは厳格に適用しました。そのプロセスの中でも特に重要なのが「情報」の扱いです。
(p153より引用) 情報収集プロセスに対し私と担当官で同じ見方になるように、また、担当官の説明責任を軽減してあげるため、私は、次に示す4カ条のルールを設定した。・・・
・わかっていることを言え。
・わかっていないことを言え。
・その上で、どう考えるかを言え。
・この3つを常に区別しろ。
この4カ条の中で最も実践するのが難しいのが、「わかっていないことを言え」です。
そもそも「わかっていない」ことは何なのかを突き詰めるのは極めて困難ですし、情報を求めている上司に対して「わかっていない」ことを言うこと自体に大きなプレッシャーがかかるからです。
したがって、この「わかっていないことを言え」を実践させるためには、上司の側から受容の姿勢を示すことが重要になります。
パウエル氏の受容の姿勢を示す証左のひとつは、パウエル氏が新しい部下に配るメモの第一項目でも明らかです。
(p178より引用) なにをなすべきかわからないとき、私への確認を遠慮するな
指示内容がわからなければとことん聞け、そこまでしてもわからないのならば、自分の方か混乱しているのだとパウエル氏は言っています。
最後の責任を自分に帰納させるこの謙虚な態度は、素晴らしいと思います。
私も口では同じようなことを言いはしますが、本当に完遂できるか、またできているかと自問すると、情けないことに全く自信がありません。是非とも学びたい姿勢です。
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