マッキンゼーを退社してDeNAを立ち上げ一流企業にまで成長させたリアルなストーリーを、創業者である南場智子氏自身が語ります。
よくある“優等生的ビジネス書”といったトーンでもないですね。ひとりの起業家とそのチームのメンバを主人公に、創業から今に至るまでのエピソードを綴ったエッセイという趣きすら感じる内容です。
まずは、「まえがき」で語られる南場さんのプラス思考の姿勢が表れているくだりです。
(p5より引用) 私は、苦しいときにふたつのことを意識する。
ひとつは、とんでもない苦境ほど、素晴らしい立ち直り方を魅せる格好のステージだと思って張り切ることにしている。そしてもうひとつは、必ず後から振り返って、あれがあってよかったね、と言える大きなプラスアルファの拾い物をしようと考える。
超一流の戦略コンサルタントであった南場さんにとっても、自分で会社を切り盛りしていくことは想像以上に大変なことの連続だったようです。
(p93より引用) コンサルタント時代は、クライアント企業の弱点やできていないところばかりが目についてしまい、大事なことに気づかなかった。普通に物事が回る会社、普通にサービスや商品を提供し続ける会社というのが、いかに普通でない努力をしていることか。
普通に日々の業務を取り運んでいると見える企業であっても、その実態の姿は、水面下で足をバタバタさせている「水面に浮かぶ水鳥」だということです。
南場さんによると、DeNA成長の過程は、アクシデント・トラブル・失敗の連続だったとのこと。そういった中で、改めて気づくことが多々あったようです。
(p151より引用) 何かやらかした人たちに対する対応は、その会社の品格が如実に表れると感じる。甘さを求めているのではない。・・・が、私たちは、このときのように、お詫びをしなければならない事態になって、ますますファンになり、その会社のために頑張りたくなるようなパートナーに恵まれてきた。
責任は問うが、フェアな対応。エキサイト、日本コカ・コーラ、サントリー等の姿勢に接して、南場さんは「社格」という単語でその見事さを表し、こう思いました。
(p152より引用) こうしたパートナーやクライアントかの対応から学び、当社も同じように、respect(敬意)とappreciation(感謝)の姿勢がすべてのスタッフの言動ににじみ出るような会社にしていきたい。
さて、本書ですが、“ビジネス書”という視点でみると、南場さんの語るDeNA成長のプロセスそのものがリアルなケーススタディとしての役割を果たしているように思います。
とはいえ、強いて、ビジネスにおけるアドバイスがより直截的に語られているところを紹介すると、まずは「意思決定と実行」について語っているくだり。
(p204より引用) ○、×、△はちょっと稚拙な例だが、意思決定のプロセスを論理的に行うのは悪いことではない。でもそのプロセスを皆とシェアして、決定の迷いを見せることがチームの突破力を極端に弱めることがあるのだ。・・・決定したプランを実行チーム全員に話すときは、これしかない、いける、という信念を前面に出したほうがよい。・・・迷いのないチームは迷いのあるチームよりも突破力がはるかに強い・・・
いわゆる“背水の陣”ですね。打ち手に選択肢があることが頭の片隅に少しでもあると、取り組んでいるアクションが不調の場合の逃げ道になってしまうのです。
もうひとつ、「意思決定のスピード」についてです。
コンサルタント時代、南場氏は、これでもかと情報を収集しそれらを精緻に分析して判断していました。しかし、このやり方は経営現場の意思決定方法としては全く不適だったのです。
(p204より引用) 不完全な情報に基づく迅速な意思決定が、充実した情報に基づくゆっくりとした意思決定に数段勝るということも身をもって学んだ。・・・実際に実行する前に集めた情報など、たかが知れているということだ。・・・やりはじめる前にねちねちと情報の精度を上げるのは、あるレベルを超えると圧倒的に無意味となる。それでタイミングを逃してしまったら本末転倒、大罪だ。
そして最後に、
(p205より引用) 事業リーダーにとって、「正しい選択肢を選ぶ」ことは当然重要だが、それと同等以上に「選んだ選択肢を正しくする」ということが重要となる。
この意志力が、まさに実業を預かるリーダーの「胆力」なのです。
本書を読み通しての感想ですが、評判どおり、良書だと思います。
南場さんの自然体の姿がストレートに映された爽やか系の著作ですね。この一冊にこめられた強烈な想いがヴィヴィッドに伝わってきました。
不格好経営―チームDeNAの挑戦 価格:¥ 1,680(税込) 発売日:2013-06-11 |
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