ウィキリークスにより夥しい量の機密外交文書がオープンにされて約1年。
本書は、「ウィキリークス」とその創設者「ジュリアン・アサンジ」をテーマにしたノンフィクションです。
従前の軍事・外交における「常識」を根底から覆し世界に激震を走らせたウィキリークスですが、その特異な行動の目的について、アサンジはこう語っています。
(p36より引用) 我々のゴールはより透明性の高い社会を実現することではなく、より公平な社会を実現することである。透明性が高くオープンであることは、多くの場合、そうしたゴールに社会を導く傾向がある。なぜならば、権力を乱用する計画や振る舞いは市民の反対を受けるし、権力者はそうした計画を実施する前に人々の反対に遭うことになるからだ。
ウィキリークスで公開された25万点以上にのぼる国務省の外交公電等の漏洩元は、イラクに派遣されていた米陸軍インテリジェンス分析官だと目されています。
なぜ、一陸軍軍人が国家機密情報にアクセスし持ち出すことができたのか、その背景について著者はこう説明しています。
(p84より引用) 9.11テロは米国のインテリジェンス・コミュニティや国家安全保障サークルに深い傷を残した。「もっとお互いに連携し、情報を共有していれば、あの惨事を防げたかもしれない・・・」。このトラウマが、かつてない大規模な機密情報の共有ネットワークの構築を可能にした。・・・9.11後の「情報“共有”革命」の結果、60万人もの米軍人・米国防総省の文官たちがこのネットワークにアクセスすることが可能になっていた。
この中の一人が、漏洩元ブラッドリー・マニングだったのです。
(p86より引用) 米国防総省は、SIPRNETの機密情報の不正なコピーを防ぐため、USBメモリーや外付けのデータ記録用デバイスの使用を禁止していたが、CDは禁止項目に入っていなかった。マニングはこの抜け穴を利用して、SIPRNETにアクセス可能なインテリジェンス・センターのコンピューターに空のCDを持ち込んでは、機密情報をコピーしていたのである。
しかし、これが事実ならあまりにも杜撰と言わざるを得ません。(正直なところ、国家機密情報の管理がこの程度の厳格さであったという説明内容はどうしても信じられませんが・・・)
そして、もう一つの誘引に、対イラク戦の不調がありました。
(p91より引用) 9.11テロのトラウマから情報共有を促進したこと、泥沼のイラクから抜け出すために現場の兵士たちにより多くの機密文書へのアクセスを許したこと。この2つの流れが前代未聞の機密情報の大量漏洩を可能にする舞台を設定したのであった。
インターネットは、世界中の情報の流れを一変させました。日本においても、尖閣諸島中国漁船衝突事件における実写ビデオの流出に見られるように、「機密情報」に係る一人の判断と行動がとてつもなく大きな社会影響を与えうることが実証されています。
多様な価値観の存在は、決して否定されるべきものではありません。その条件の中で、守られるべき権利・権益等をどう捉えるか、異なる価値が交錯する具体的事例を前にしてどう対応・対処するか、非常に悩ましい問題です。
さて、最後に本書の印象です。
見開きには「全ての謎に迫る渾身のノンフィクション」と大書されていますがどうでしょう・・・。著作のボリュームとしては、ウィキリークスが公開した情報の紹介・解説がかなりのページを占めていて、実際の「ウィキリークス」という組織の内情の追究・「ジュリアン・アサンジ」というベールに包まれた人物の深堀りといった点では、正直なところかなり物足りなさを感じました。
ウィキリークスの衝撃 世界を揺るがす機密漏洩の正体 価格:¥ 1,680(税込) 発売日:2011-03-03 |
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