本書では「創発マーケティング」を実践している事例をいくつか紹介しています。
その中のひとつ、「ハーレーダビッドソンジャパン(HDJ)」の奥井社長は、従来型の「顧客囲い込み戦略」に対して大きな疑念を表明しています。
(p265より引用) 奥井社長は、自動車産業に従事してきた経験をもとに、アメリカ発の従来型のマーケティングに対して、「顧客を囲い込むことなどできない」とする根源的な問題を提起した。その背景には、「顧客囲い込み」をベースにする生涯顧客論が、時に顧客視点の重要性を強調しておきながら、実は、優良顧客の選別という名の下に、企業が自ら発した価値観を顧客に押し付け、顧客を操作できるという顧客視点を無視した考え方を前提にしているとの認識がある。
今日の顧客は、商品の提供者である企業と同等もしくはそれ以上の情報を保持しています。そういう情報共有/発信型の顧客をベースに置くと、マーケティング・コミュニケーション戦略も大きく変化せざるを得ません。
(p168より引用) いままでの広告効果のモデル、AIDMAモデルにしろ、DAGMARにしろ、最終的なゴールはaction、すなわち「物の購入」で終わっていた。それは消費者間の相互作用がほとんどなかった時代だからこそ考えられるモデルであり、いまはそうはいかない。Actionの後の情報の伝達、共有までも考えたモデルが必要となってくる。
本書において著者たちは、次のマーケティングメソッドとして「創発」マーケティングの重要性を主張しています。
しかしながら、その「創発」をプロセスとして取り込むためのマネジメントスタイルは、従来型となんら矛盾するものではないと主張しています。
(p280より引用) 計画・管理は、当初の予定を何が何でも貫徹させる、というものではなく、その本質はPlan-Do-Seeのサイクルを効率的に回すことにあり、変化する状況をこのサイクルに取り入れ、計画・管理そのものを戦略的に変えていくことを目的としている。そこには、創発を取り込むことも既に含意されているとみてよい。
偶然を排除するのではなく、偶然を取り込んで新たな計画・管理のサイクルをまわすことが、「創発」を活かすいわば止揚された行動スタイルなのです。
(p268より引用) 「創発」を意図したマーケティングとは、マーケティング活動の全体が、マーケティングを構成する諸要素(例えばマーケティングの4Pのように、決定論的に顧客の振る舞いを操作する手法)によってもたらされる成果の総和としてかたちづくられるのではなく、諸要素間の「振る舞い」の相互作用が、全体として当初の「仕掛け」の範疇を超えた成果をもたらすということを、あらかじめ戦略に織り込む行動様式といえるだろう。ここでの「仕掛け」の範疇を超えた成果とは、新たな需要の発見かもしれないし、新たな戦略の発見かもしれない。
創発するマーケティング 価格:¥ 1,890(税込) 発売日:2008-03-14 |
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