本書の第2章では、「吉野家の価格決定」をケースに畑村氏の「決定学」を実践に適用しています。
併せて、吉野家安部修仁社長の興味深い話がいくつも紹介されています。
まずは、「自負」についての安部社長の示唆です。
(p140より引用) 自負を持つというのは大切なことですが、反面で持ち過ぎると悪い面もあります。
自分が相手より勝っていることを確認するために、現状と向き合おうとはせず、自分の長所と相手の短所を引き比べて優位な部分を探そうとします。本当の意味での競争力を鍛えずにそんなことばかりしていると、優位性はどんどん失われて、最後には何もなくなってしまうんです。
この点は、次のような、「観念的論評」を嫌い「事実への立脚」を基本とする安部社長の姿勢に通じるものがあります。
(p141より引用) 私は「観念的に論評されることは間違っている」という前提に立ったほうが逆に間違いは少ない、と思っています。・・・特にマーケットの予測なんてほとんど外れてますよ。大体、五分先の株価や為替動向が読めないのに、何で一年後の予測ができるんだと言いたい。
だから私は現象の把握はあくまで事実に基づいて行おうと心掛けています。
また、安部社長のいう「スピーディー」の定義も興味深いものです。
(p144より引用) 私が考える本当のスピーディーというのは、仮説の検証を正しいステップで迅速にやって早く結論を見つけることです。でも、多くの人は世の中が要求するスピーディーは、そんなステップはすっ飛ばして思い立ったらすぐにやることだ、と勘違いしている。だからいっぱい間違えるんですね。
安部社長の思考は非常に論理的・実証的であり、その論理プロセスの高速化が、安部社長の決断の大きな要素になっているようです。
吉野家の新価格決定に至るプロセスにおいて、安部社長は「250円セールの失敗」を経験しています。
失敗について、畑村氏は「反省」と「省察」という2つの言葉を用いて以下のように論じています。
(p256より引用) 必要なのは反省ではなく、「省察」です。・・・決定学における省察の中身は何かといえば、決断し、行動して、起こった結果を省みることです。結果の要素を摘出し、構造化して考える。それを文章や絵でまとめて知識化する。こうした行程を踏んだ省察だけが他者に正しく伝わり、次の機会に生かせるのです。そこに自己批判は必要ない。結果を受け止めて正しく分析するだけのことです。省察は次に動くためのエネルギーを生み出すものなのです。
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