半藤一利氏が得意とする歴史エッセイを集めた本です。
雑誌「遊歩人」に連載されたコラムが中心ですが、全国紙用に書かれた原稿も加えられています。
前半部は第一部として、「戦時期」を舞台にした「昭和史巷談話」。
中にはユーモラスなものもありますが、ほとんどが、半藤氏が抱き続けた戦争批判のメッセージの発露といえるでしょう。
たとえば、「特攻隊員の痛哭の川柳」の節では・・・
(p94より、特攻出撃三九機。残りし福知と伊熊も、沖縄海域にて散る。この日、わが艦艇に沈みしものなし、とは米海軍省の発表なり。
そして、「速やかに特殊爆弾を投下せよ!」の結びのくだり。
(p113より引用) 注目してほしいのは、降伏勧告のポツダム宣言が日本に伝えられる以前に、非情にも、投下命令は発せられていたということである。だれも疑いをはさむ余地はない、良心の痛みもない、すべては自然の流れであった。それが戦争というものなのである。
さて、後半の第二章は「日本史閑談」。
さまざまな時代のエピソードを、ウィットを含んだ軽妙な筆致で紹介していきます。
そういった中からひとつご紹介です。タイトルは「『勧進帳』の義経と弁慶」。
歌舞伎の「勧進帳」は謡曲の「安宅」に拠っていることは有名ですが、半藤氏によると、この「安宅の関での義経主従危機一髪」の一幕はどうも史実と異なるとのこと。「吾妻鑑」や「平家物語」などその時代を記述した史書には「緊迫したシーン」は出てこないというのです。
(p187より引用) ウーム、見事なフィクション!と思っていたら、これがそうではなくて、中国の古典に主君打擲で難所を切り抜ける話が山ほどもあると、物知りに教えられた。たとえば『戦国策』。・・・ほかにも、『晋書元帝紀』『宋書王華伝』エトセトラ。
それにしても、こんな素朴な説話を、絢爛豪華な名舞台に仕立てあげるとは、日本人とは二次加工の名人であることよ。
と、こんな感じです。
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