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知識 (流れを経営する―持続的イノベーション企業の動態理論 遠山 亮子・平田 透・野中 郁次郎))

2011-08-25 20:36:40 | 本と雑誌

Seci_model  今までも野中郁次郎氏の著作は何冊か読んでいます。
 本書はそれらの中でも、野中氏の主張を俯瞰的・概括的にまとめた最新書だと位置づけられます。

 野中氏の経営論のエッセンスは、本書の「はじめに」の章において総論的にまとめられています。その中で特に私が共感を覚えたフレーズです。

(pⅵ) 知識ベースの経営理論においては、人間は決して没個性的な活動単位の集合体ではなく、環境に影響を受けながらも自ら環境を変え、経験に学びつつ自らの理想の未来に向けて進み続けることにより、新たな自己生成を繰り返していく能動的存在である。つまり、人間は管理されるべき不完全な部品ではなく、変化し成長し、他者と関係性を結んで自らが描いた未来の像に基づいて知識を創り出す創造的存在であり、個々人の差異は排除されるべきノイズではなく、新たな知識を生み出す源泉なのである。

 この人間の存在論を起点としているところに、野中氏の経営論の独自性と現実性を感得するのです。

 その他、本書の前半の理論編においては、野中氏の経営理論で登場する基本的なコンセプトやフレームワークが要領よく解説されています。それらの中から、改めて覚えとしていくつか書き留めておきます。
 まずは、野中氏が提唱する知識経営を理解する前提として、「知識」の定義から。

(p7より引用) 知識ベース企業の理論を構築するにあたり、われわれは知識を「個人の信念が真実へと正当化されるダイナミックな社会的プロセス」と定義する。

 分かりにくい定義ですが、もう少し噛み砕くとこういう説明になるようです。

(p7より引用) これは、知識の重要な特性はその絶対的「真実性(truth)」よりもむしろ対話と実践を通して「信念を正当化する(justifying belief)」点にあるとの考えに基づく。・・・つまり、知識とは他者との相互作用を通じて、何が真・善・美であるかを問い続けるプロセスであり、そうした信念(主観)と正当化(客観)の相互作用にこそ知識の本質がある

 私の場合は、この説明でも正直よく理解できていません・・・。

 野中理論においては、知識は与えられるものではなく、「創造」するプロセスとして位置づけられています。

(p16より引用) 知識は人と独立して外界に存在するのではなく、何かをなそうとする人によって作られるものなのである。組織における知識創造のプロセスとは、知識ビジョンなどの「どう成りたいか」という目的に動かされた成員が、互いに作用しながら自身の限界を超えて知識を創造することにより将来のビジョンを実現させるプロセスにほかならない。

 そして、この知識創造のプロセスは、主観と客観との間の往還運動によりスパイラルアップ的に止揚されていくのです。いわゆる「SECIモデル」です。

(p28より引用) われわれは、・・・暗黙知と形式知の相互作用こそが、知識創造の源泉であると考える。暗黙知と形式知の継続的な相互変換によって知識は生成され、変化し続けるのであり、その意味でプロセスなのである。
 この暗黙知と形式知の継続的な相互変換は、「共同化(Socialization)」「表出化(Externalization)」「連結化(Combination)」「内面化(Internalization)」という四つの変換モードからなる知識創造モデルによって表される。これをそれぞれの頭文字を取ってSECIモデルと呼ぶ。

 繰り返しますが、野中理論における「知識」はダイナミックなプロセスなのです。また、企業経営も、対話と実践の往還と重層的な場の形成といった動的関係性のなかで営まれるものと捉えられています。

(p394より引用) 複雑で常に変化する環境において、さまざまな矛盾を含んだ課題には、「あれかこれか(either or)」ではなく「あれもこれも(both and)」の命題で対処し、矛盾を綜合する弁証法的な思考法により、解決策を創造することが必要である。・・・知識創造とは本質的に帰納的であり、弁証法的プロセスなのである。

 このようなマネジメントを可能にするのが「フロネシス=賢慮=実践的知恵」だと野中氏は主張しています。


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