本書は、まさにタイトルどおり、丸谷氏による「考えるための講義」です。
本の後半部分では、丸谷氏流の「本を読むコツ」「考えるコツ」「書き方のコツ」が紹介されています。
そのあたりの中から、私が興味をもった部分をご紹介します。
まずは、至極当たり前のことですが、「本に対峙したときの考え方」についてです。
(p109より引用) 登場人物が思考の道筋と語るのではなく、本全体としてある考え方を示している場合もあります。・・・著者のものの考え方は何が特徴か、どのように論理は展開されているか、と考えると、とてもためになります。
本で表明された著者の主張の根底にある「思考スタイル」、そしてその思想の「表出スタイル」を摑むということです。
私自身、こういうザクッとした「コンセプトの切り出し」が苦手です。
丸谷氏は、コンセプトの切り出しに関して、もうひとつ重要なポイントを指摘しています。
それは、切り出したコンセプトに「名前をつける」ということです。
(p214より引用) 多様なものを要約、概括して、そこから一つの型をとりだす。それがものを考えるときに非常に大事なことだと思うんです。
その際、もう一つ大切なことがあります。型を発見したら、その型に対して名前をつける。・・・ユングは「集団的無意識」という言葉をつくった。本居宣長は日本人の恋愛好きを「もののあはれ」と要約した。・・・そういう名づけが大切なんですね。
適切な名前をつけるためには、対象の本質を確実に把握し、それを再現させる「ことば」を作り出さなくてはなりません。
「コンセプト」の説明において「メタファー」の重要性は指摘されていますが、まさに「名付け」の重要性は同根です。
そのほか、本書で丸谷氏が薦めている「仮説」の効用について。
仮説を立てるということは、新たなコンセプトを世に問う行為です。
(p211より引用) ダメな仮説はやっぱりダメです。でもいいときには、どんどんそれを応援する説がでてくる。だから、仮説は立てなきゃ損なんです。
仮説をたてることにより、自らの思考も鍛えられますし、他者によっても磨かれるというわけです。
そして、巻末の丸谷氏の主張です。
(p269より引用) だから、言うべきことをわれわれは持たなければならない。言うべきことを持てば、言葉が湧き、文章が生れる。工夫と習練によっては、それが名文になるかもしれません。でも、名文にならなくたっていい。とにかく内容のあることを書きましょう。
そのためには、考えること。そう思うんですよ。
思考のレッスン (文春文庫) 価格:¥ 500(税込) 発売日:2002-10 |
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