著者の内田和成氏は、現在は早稲田大学ビジネススクール教授です。
数多くのビジネス書を執筆していますが、それらの著作で示された示唆やアドバイスは、前職のボストンコンサルティンググループでの豊富なコンサルタント経験を活かした具体的・実践的なものでとても参考になります。
今回の内田氏の問題意識は、「情報活用」です。
以前は、梅棹忠夫氏の名著「知的生産の技術」で紹介された京大型カードのように情報収集・整理力が他者との差別化のキーファクタでした。しかし、現代のようなネット社会においては、情報収集力では差がつかなくなりました。
そういう時代背景を踏まえ、本書では、結果としての「アウトプット」のレベル向上を目指して、そのゴールに向けた手段としての具体的な「内田流情報活用法」が数多く紹介されています。
本書での内田氏の主張によれば、情報活用は「手段」ですから、当然「目的」が重要になります。目的あっての情報です。
(p31より引用) 単に情報といっても、その仕事の目的が意思決定なのか、何か新しいものを創り出すのか、決定したことをうまく伝えるなどのコミュニケーションなのかによって違ってくる。・・・
情報とは単なるデータではなく、先に何を成し遂げたいかという仕事の目的があり、それに応じて決まってくるというのが、アウトプットを重視する知的生産術のそもそものスタート地点だ。
目的を明確化した後、その目的に沿った情報収集に取りかかるわけですが、ここでも著者はユニークな提言をしています。「情報は集めるな、覚えるな、整理するな」。これもまた「情報収集を目的化すること」への警鐘です。
(p66より引用) 戦場のリーダーはある程度のところで見切って、今すぐ攻撃に踏み切るべきだとか、あるいは撤退すべきだとかを決めなくてはならない。決断をするためにどれだけの情報を集めるべきかという絶対の公式などはない。結局、どこで決断するかという、自分の線引きの問題だ。
それでは、どうすればより少ない情報で精度の高い判断を下せるのか。それにはやはり「経験」しかないというのが著者の結論です。
しかしこの経験の積み方にも内田流のアドバイスがあります。
(p67より引用) 「この前は失敗したので、前は30調べたのを今度は60調べてから判断しよう」とは考えずに、「じゃあ、同じ30の情報でどうやって前よりいい意思決定なり、よい企画立案ができるだとろうか」と考えるのだ。
この視点の転換は、なるほどなと思いますね。
この点をより明快に表したものとして、著者は、帝人の元社長安居祥策氏の言葉を紹介しています。
(p74より引用) 「経営者は、情報量が3割しかない段階で決断しなければならない。5割になるのを待っていたら遅い」
ここで重要なポイントは「量」の議論に転化しないことです。どうすれば、3割の量の情報をより有益な情報ものにすることができるか・・・、情報の「質」を高めることに知恵を絞るのです。
情報収集は「仕事」をするための「作業」のひとつです。作業の効率化が図られたからといって「仕事」ができたことにはなりません。
著者は、仕事と作業の違いについてこう定義しています。
(p69より引用) 「ある目的を達成すること」が仕事であり、「その目的を達成するための手段」が作業ということになる。
さて、本書を読み終わっての感想ですが、興味深い内田氏推奨の具体的な「情報活用術」が数多く紹介されているので、それはそれでとても有益でした。
ただ、私としては、内田氏によって、「仕事へ取り組む姿」のToBe像を改めで提示された感じがしています。
自分たちの役割(内田氏の言い方では「期待役割」)や仕事の目的に立ち戻って、自らの行動を見直すという「目的志向」の再認識です。
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