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イノベーションとインプルーブメント (技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか(妹尾堅一郎))

2009-12-17 22:29:56 | 本と雑誌

 イノベーションインプルーブメント。本書の立論において重要なコンセプトです。

 この2つのコンセプトの関係を整理した妹尾氏流の「イノベーション7原則」です。

 
(p11より引用)
第一原則:従来モデルの改善をいくら突き進めても、イノベーションは起こらない
第二原則:イノベーションは従来モデルを駆逐し、その生産性向上努力を無にする
第三原則:システム的な階層構造上、常に上位のモデルのイノベーションが競争優位に立つ
第四原則:下位レベルのモデル磨きは、上位のモデル磨きにとどまる場合が普通だが、ときに上位モデル創新となる場合もある
第五原則:プロダクトイノベーションのほうがプロセスイノベーションより強い
第六原則:同種モデル間の競争はインプルーブメント、異種間の競争はイノベーション
第七原則:成長と発展、イノベーションとインプルーブメントは「スパイラルな関係」

 
 昨今、「イノベーション」の重要性は声高に叫ばれていますが、過去との比較において、その意義が十分に理解されているかといえば大いに疑問です。
 ここでも「インプルーブメント」との対比でその点が説明されています。

 
(p23より引用) 世界の産業においては、「インプルーブメントで勝つ」すなわち従来のモデルを練磨することで勝つ競争モデルから、「イノベーションで勝つ」すなわち新規モデルへと移行しつつあります。競争力モデル自体が大きく変わったのです。日本の経営者は、日本のお家芸であった「既存モデルの練磨」では勝てなくなったことを、まず認識すべきなのです。

 
 「イノベーションで勝つ」モデルの代表的な例として、妹尾氏はインテルの戦略を紹介しています。「インテル・インサイド」というキャッチフレーズに顕れた「基幹部品主導で完成品を従属させる」という仕掛けです。

 
(p75より引用) 従来の部品から完成品までの垂直統合、研究開発から販売普及までの垂直統合、そういった抱え込み主義の企業が勝つのではなく、そのプロセスを分担した「国際イノベーション共闘」が最も勝つという構造です。

 
 さて、「既存モデルの練磨」では太刀打ちできなくなった日本は、新たなイノベーションモデルでのビジネスに乗り出さなくてはなりません。

 
(p371より引用) かつて競争力がインプルーブメントモデルの時代には、事業化はうまかった。・・・しかし、現在はうまくない。なぜかと言えば、競争力モデルが当時と変わったからです。インプルーブメントモデルからイノベーションモデルに移行したからです。

 
 この新たな競争力モデルの世界で生き抜いていくためには、知財マネジメントの要素を加えたイノベーションシナリオを描く必要があります。妹尾氏のいう「三位一体」型経営戦略の策定です。そして、その際活用するのがイノベーションロードマップです。

 
(p334より引用) 「過去のマップのみならず、将来へのロードマップであること」「特許のみならず、意匠権や商標権も含めること」「権利化するものだけでなく、秘匿知財も入れること」「他社への公開や標準化についても組み込むこと」、等々を強調します。

 
 ここでのポイントは、「技術」「事業」「知財」の3つのドメインについて、インベンションのためだけでなく、その後のディフュージョンも見通したマップを描くことです。

 さて、最後に、妹尾氏が紹介している日本的進化論(棲み分け)を提唱した今西錦司氏のことばを引用しておきます。

 
(p376より引用) 「生物の世界では、与えられた環境の中でいかに自分を適応させるかだけが原理ではない。生物は、与えられた環境を自ら変え、それを次々と発展させることにより、他の生物と棲み分ける

 
 この共生的棲み分けの考え方は、事業環境変化への対応を説く際によく引き合いに出されるダーウィンの「生き残るのは変わり続ける種だ」という考えを、さらに一歩進めたものだと言えるでしょう。
 
 

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発売日:2009-07-31

 
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