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ゆく川の流れは、動的平衡 (福岡 伸一)

2022-11-02 09:46:24 | 本と雑誌

 福岡伸一さんの著作は、代表作の「生物と無生物のあいだ」をはじめとして結構読んでいます。
 本書も、いつもの図書館の新着本リストの中で見つけたので早速手に取ってみました。朝日新聞に連載されたエッセイの書籍化とのことです。

 お馴染みのテイストの話の中から、私の関心を惹いたところを書き留めておきます。

 まずは、「偏見の源、脳が作る物語」より。

(p99より引用) 米国ロックフェラー大学の私の師にあたるB・マキュアン教授のドアにはこんな標語が貼ってある。「発見の障害になるのは無知ではなく既知である」知っているつもりのこと、すなわち偏見が、真実を見る目を覆い隠してしまうことはよくある。

 “真実を見えなくする” のは「偏見」に止まらないですね。昨今のSNSの場をはじめとした「フェイク写真」「フェイクニュース」の流布により、歪んだ印象や間違った理解が醸成されやすい環境になっていて、「知ってるつもり」の弊害はますます増加・拡散しています。

 次は、福岡さんの代名詞とも言うべき「動的平衡」を扱った「作ることは、壊すこと」の中のコメント。

(p118より引用) ところで世間では、しばしば、解体的出直し、といったことが叫ばれるが、全てを解体しなければニッチもサッチもいかなくなった組織はその時点でもう終わりである。そうならないために、生命はいつも自らを解体し、構築しなおしている。つまり(大きく)変わらないために、(小さく)変わり続けている。そして、あらかじめ分解することを予定した上で、合成がなされている。
 都市に立ちならぶ高層ビル群を眺めながら思う。はたしてこの中に、解体することを想定して建設された建物があるだろうか。作ることに壊すことがすでに含まれている。これが生命のあり方だ。そろそろ私たちも自らの20世紀型パラダイムを作り替える必要があるのではないだろうか。

 定期的に全面的な建て替えを行う伊勢神宮と、建立以来部分的な修繕を繰り返している法隆寺。福岡さんは、生命の本質を“動的平衡” とする立場から、より生命的なのは法隆寺だと考えています。
 コンクリートのビル群、特に高層マンションは、物理的にも壊すのは大変ですが、さらに建て替えとなると“居住者の意思” が立ちはだかりますね。部分的な修繕は不可能なので、ことさら厄介です。

 そして、3つめは「過剰さは効率を凌駕する」より。

(p184より引用) 無作為に大過剰を作り出すことは一見、無駄に思える。コストもかかる。しかし生命はあえてそうしている。無作為は作為にまさる。過剰さは効率を凌駕する。長い目でみれば。これが想定外に対する最良の対策であったことは、過去38億年間にわたり、いかに環境が激変しようとも、一度たりとも途切れることなく生命が続いてきた事実が証明していることなのだ。

 生物は、過剰に準備しておいて環境に刈り取らせるとのことです。なるほど、これは面白い指摘ですね。

 最後に、本書を読んで最も印象的だったフレーズを書き留めておきます。

(p121より引用) とはいえ、植物たちは地球上に誕生した生命の先駆者としてのノブレス・オブリージュを忘れることはない。食糧、建材、エネルギー源、そして酸素。彼らの寛容さがあればこそ、あとから来た我々が生存できるのである。

 「あるときは凶暴な植物」とタイトルされた小文の一節。
 食糧難、自然災害、化石燃料の枯渇、そして地球温暖化・・・、現代の人類は、この「植物」の騎士道精神に最後の生存への道を託さなくてはならないようです。光のエネルギーを利用して二酸化炭素と水から有機化合物を合成し酸素を放出する、これは地球上の生命にとって「根源的な営み」ですから。 

 さて、本書を読んでの感想です。
 興味深い切り口でフォーカスされたさまざまな日常が軽いタッチで綴られていますが、やはり福岡さんらしく“動的平衡”を定義とする「生命」がテーマとなっている小文が印象に残りましたね。

 ただ、新聞連載という形式的制約からか、正直なところ、福岡さんらしい自由奔放さや小気味良さは今ひとつ感じられませんでした。際立つインパクトがなかったのは、ちょっと残念です。

 

 

 


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「ヒフミヨ」の「神話論理」 (〇に棲む△▢ヒフミヨに)
2022-11-04 05:38:15
≪…あらかじめ分解することを予定した上で、合成がなされている…≫で、数の言葉ヒフミヨ(1234)の風景を十進法の基における西洋数学の成果の符号からチョットパラダイムシフトに数学共同体の出発点(自然数)を眺めたい・・・

≪…インパクト…≫に生るかどうか分かりませんが、2冊の絵本で・・・

 絵本「みどりのトカゲとあかいながしかく」
 絵本「もろはのつるぎ」

 文化の日絵本で遊びヒフミヨに

 分化の日2次元で観るπと1 
       (有明山神社の開運招福の碑)
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