哀歌 翔よ!! (2)
貰い手のないお年玉
例年のように、妻はお年玉のポチ袋を九つ用意した。
孫たちへのお年玉である。
「今年は、八つだよね」
悲しいことだが、昨年の暮れ、一番年長の「翔」が不慮の事故で突然に逝ってしまった。
14歳。あまりにも早い、非情な別れだった。
私たちは、悲しくて寂しいお正月を迎えることになった。
「おめでとう」とは言ってやれないが、元気に新年のあいさつに来る孫たちには、
例年どおりにお年玉を渡したい。
九人分のお年玉が、今年は八つになってしまう。
「今年最後のお年玉だから、翔の分も作ってください」
妻の声が、震えている。
大粒の涙が、頬をつたってこぼれ落ちる。
私は、震える指で、
「翔よ、とても残念で悲しいことですが、これが最後のお年玉になってしまいました」
ポチ袋に小さく書いた文字が、かすんでしまい、
私たち二人は、貰い手のいなくなったお年玉の袋を前にして、
ただただ泣く以外に術を知りませんでした。