哀歌 翔よ!! (8) 6月の風
6月の風は気まぐれである
どこかに
初夏の若葉の匂いをかすかに残し
ときには
優しいあじさいの匂いと一緒に
雨を運んでくる
梅雨の切れ目には
はっとするような夏の匂いを漂わせて
えりあしをなぜて通り過ぎていく
水田のイネの葉先を揺らしながら
緑色に変身した風は
浮気な仔猫のように
田園の村々を通り抜けていく
もうすぐ夏が来るぞと
(2014.6.16記)
えりあしをなぜて通り過ぎる風。
イネの葉先を揺らす緑の風。
そんな風景の中に立てば、
翔太郎はどうしているかと思う反面、あゝ、翔太郎はもう、この風を感じることができないのだ。
彼が育った安曇野の郷から望む雪をかぶった北アルプス。
そこに吹く風が、こころよく私たちを迎えてくれた。
翔太郎よ、もうお前と一緒にこの風を感じることはできないのだね。
あふれる思いが、今もこみあげてきて、お前の思い出を追いかける私たちです。
時は忘却を伴って過ぎていくというが、翔太郎が残してくれたさわやかな風を私たちは一生忘れない。
(2014.6.17記)