読書案内「コラプティオ」
真山 真 著 文芸春秋刊
本書は、「別冊文芸春秋」に連載されたものであるが、
連載最終回3日前に東日本大震災が発生した。
そのため、その震災と原発事故を踏まえて、大幅に加筆修正をしたものである。
その内容が、あまりにも現実の政権の姿に似ていて、愕然とする。
小説に特定のモデルがあるわけではなく、
扱っている問題が、普遍的、現実的だということなのでしょう。
震災後に現れたカリスマ総理・宮藤は、
原発事故を経験し、克服した日本だけが世界に安心を届けることができると、
海外への新規原発建設の受注交渉に舵を切る。
これを支える若き内閣調査官・白石望は総理の信頼も厚い。
政治という巨大権力に立ち向かい、原子力政策にまつわる「疑惑」を暴こうとする新聞記者・神林裕太。
「原子力政策の推進」に舵を切った時から、多くの利権が絡み合い、権謀術数の世界が繰り広げられる。
決して本音では語れない、
駆け引きと、力のバランスをどのようにとっていくかが政治手腕であり、結果の良し悪しを左右する。
政策の推進のためには、総理を支える側近さえも更迭してはばからない政治の世界。
神林の著名記事の、政治家の在り方言及した個所が印象的である。
「政治家とは自らの言動行動に責任を持ち、無心の心で国民に尽くすものをいう。
巨大な権力を掌握できるだけに、その世界に身を置くための覚悟が試されるのだ」と。
タイトルの「コラプティオ」とは、ラテン語で「汚職・腐敗」という意味だそうですが、
権力の独占は、政治的混乱の源であり、「汚職・腐敗」に繋がっていくのか。
原発の利権争いに各国の動きは、いかにして権利を獲得するか、
そのためにはなりふり構わず、相手国を叩き潰す。
水面下の駆け引きと、原発導入国が展開する、「いかに安く、良い条件」で原発を手に入れるか。
莫大な汚れた資金が動く。それでも、現実は利権を手中に収めた者(国)が生き残っていくのか。
こうした闇を追求し、暴いていくメディアの真価が問われるところである。
評価 ★★★★☆ (2014.6.15記)