土漠の花
月村了衛著 幻冬舎 2014.9刊 第1刷
ソマリアの国境地帯で自衛隊が紛争に巻き込まれる。
陸上自衛隊第一空挺団の精鋭たち。
ソマリアの国境付近で士族間抗争で命を狙われている女が駆け込んできた。
ご存知のように、この地帯は世界有数の危険地帯だ。
闘わぬ自衛隊は、支援物資の輸送等に携わる、いわゆる後方支援を主なる任務としている。
だが敵が攻撃を仕掛けてきたら、
戦闘に巻き込まれてしまったら、
闘わずして自分たちの命を守ることができるのか。
読み始めるとそんな疑問はどうでもよくなってしまう。
逃げて来た女を避難民として保護した時から、ハリウッド映画なみの闘いが始まる。
それは、戦争に名を借りた殺戮行為だ。
残虐無比、武器を取って戦わなければこちらがやられてしまう。
冒頭から隊員2名が銃撃で、血を吹いて倒れる。
鈍い音とともに土の上に転がった物は、動哨に出ていた隊員のはねられた首だ。
指揮官までもが殺されてしまう。。
なぶり殺し、問答無用に手当たり次第に隊員に向けられる殺戮。
〈未だ勝って戦ったことのない軍隊〉である自衛隊が、こんな成り行きで戦うことになろうとはーーー
隊員の述懐だが殺戮の現場で、こんな悠長なことなど考える余裕なぞどこにもないと思う。
倒さなければ自分が倒される逼迫した状況の中で、隊員の過去が思い出されたりするが、そんな余裕なぞないはずだ。
圧倒的な兵員と武器を持って攻めてくるソマリア民兵。
氏族間抗争で命を狙われている女が駆け込んだとき、壮絶な撤退戦の幕が上がった。
圧倒的な数的不利。
武器も土地鑑もない。
通信手段も皆無。
自然の猛威も牙をむく。
最悪の状況のなか、仲間内での疑心暗鬼まで湧き起る。
なぜここまで激しく攻撃されるのか? なぜ救援が来ないのか?
(ブックデータより引用)
息もつかせぬノンストップアクションだが、あまりに続く戦闘シーンに私はちょっと疲れてしまう。
「自衛隊は人を殺せるのか」ってことはどうでもよくなってしまう。
窮地を脱するには、相手を倒す以外に方法はない。
相手も逃げた女をとらえ、処刑するには日本の戦闘員を殺す以外に方法はない。
日本国憲法とか、自衛隊法とか、国際法などの解釈云々が、殺し合いの現場ではいかに虚しいか。
作者は最後に思いもしない結末を用意する。
生きて帰って来た隊員に待っていたのは、 政府による隠ぺい工作だ。
このあたりいかにも、ハリウッド映画的な幕切れだ。
だが、物語はここで終わらない。
実に日本的な終わり方を作者・月村了衛は用意している。
「土漠の花」を意味するものは、現地の部族の娘を意味するのだが、
戦闘の進む中では影が非常に薄い。
「花」を守るために命を賭けて戦う隊員たちの心境がすこし書き込みが足りないのではないか。
最後の一行はこうだ。
桜の花びらがふわりと舞った。可憐な花の残り香だつた。
評価 ☆☆☆/5
これを記するにあたり、ネットで読書感想を調べてみた。ノンストップアクションを
評価し、一気に読めた点を評価する感想が多数を占めた。
単なる娯楽作品として余暇を十分に楽しめた読者にとっては、☆の数は4~5になるのだろう。
(2016.9.4記)