読書案内「共犯者」松本清張著
犯罪に関わる人間が多ければ多いほど、露見する確率も高い。共犯者が捕まれば、その自白から事件に関わった者が、芋づる式に捕まる話は小説に使われる題材だ。
共謀して銀行強盗を企て、大金を手にした共犯者の二人は、二度と会わない、連絡を取らないことを約束して別れた。
5年が過ぎ、内堀は強奪した金を資金に事業に成功する。汚れた金を元手に財を築けば、決してこの富を手放したくない。
貧乏暮らしの惨めな過去には戻りたくないと内堀は思う。
同時に、共犯者の片割れ町田の存在が内堀を不安に陥れる。
いつか町田が自分の前にあらわれるのではないか。
もし町田が零落していれば、いつかは自分を探し当て、過去の強盗事件をネタに脅迫するのではないかと疑心暗鬼にとらわれる。
この短編のテーマの一つにこの「疑心暗鬼」がある。
内堀は一計を案じ、ある男に町田の現状を探らせることにする。探れば探るほど、もっと詳しい町田の現状を知りたくなり、調査は深みにはまっていく。
不安と焦燥が「疑心暗鬼」の心理を増幅させていき、やがては内堀を自滅へと導いてしまう。
共犯者・町田の動向を探る必要があったのか。
不必要な詮索を開始することにより、このことが、やがて自滅への道を歩み始めることになろうとは、内堀は気づかない。
やがて、意外な展開を持って内堀は自滅する……。
下積みの人間が、犯罪によって財を成し、名誉、社会的信頼を得、これを維持するためにさらに犯罪を重ねてしまう。
ミステリーには珍しくないパターンである。
例えば、清張の小説の「ゼロの焦点」「地方紙を買う女」「顔」などがあり、水上勉の「飢餓海峡」などもこれに類する。
新潮文庫 1980年刊。昭和31 (1956) 年に週刊読売が初出。清張が『或る「小倉日記」伝』で芥川賞を取って文壇デビューしたのが昭和28年だから、清張初期の短編。本書には表題作のほかに9編の短編が収録されている。(2015.10.3記)