この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

映画『ガタカ』、最終考察リターンズ、その3。

2018-08-01 20:51:11 | 旧作映画
 ジェロームが用意した検査サンプルが偽物だとしたら、なぜ彼はそんなことをしたのでしょうか?
 もちろんそれにも理由があります。

 ジェロームはヴィンセントが旅立ったその日のうちに焼却炉に身を置いて焼身自殺をしました。
 これは多くの人が認めてくれると思いますが、その自殺は決して衝動的なものでも発作的なものでもなく、計画的なものでした。それは彼が遺髪を残したことからも伺えます。

 彼が一つ恐れていたことがあるとすれば、それは彼が自殺を企てていることをヴィンセントに気取られることでした。万が一にもそんなことがあってはなりませんでした。
 ただでさえいろいろと問題を抱えているヴィンセントに自分のことで余計な心労を掛けたくなかったのです。
 ですから彼は心の裡では死を決意しつつ、その一方でヴィンセントに対しては「旅に出るつもりだ」と嘘をつきました。 
 この心情は比較的誰にでも理解出来るものではないかと思います。

 もう一つ、ジェロームにはヴィンセントに知られてはならないことがありました。
 それは彼が、ヴィンセントは二度と生きて地球に戻ることはない、と思っていることでした。そのことも万が一にも気取られるわけには行きませんでした。
 
 言葉では「お前なら出来る、やれる」とジェロームはヴィンセントを叱咤激励ましましたが、もっと決定的な何かはないか、そうすることによって自分がヴィンセントは無事に地球に戻ってくると心から信じている、そう思わせられることはないか、ジェロームは考えたのです。
 その答えが大量の検査サンプルだったのではないでしょうか。

 実際その大量の検査サンプルを目にして、多くの人がジェロームはヴィンセントが地球に生きて帰ってくると信じているのだな、そう思いました。
 ヴィンセント自身それに近い感想を得たことでしょう。
 それこそがジェロームの目論見だったのでないか、自分はそう考えています。
 ジェロームはヴィンセントに少しでも平穏な心で宇宙に行ってもらいたかったのです。

 さて、自分はヴィンセントが宇宙で死ぬことを、そしてそれをジェロームが確信していたことを前提に話を進めてきました。
 それはただのお前の勝手な思い込みだろう、そう思われる方も多いのではないでしょうか。

 次回はアントンの立場から兄であるヴィンセントついて語りたいと思います。


                                          続く。
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