この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

映画『ガタカ』、最終考察リターンズ、その7。

2018-08-05 23:58:38 | 旧作映画
 本文では繰り返しジェロームが自ら命を絶ったのはヴィンセントが宇宙で死ぬ(ことをジェロームが確信していた)からだ、と述べてきました。
 しかしこの言葉の意味を本当に理解している人はおそらく少ないでしょう。

 ジェロームはヴィンセントが不適正者であることを知っていました。
 では具体的に、どれぐらい詳しくそのことを知っていたと思いますか?
 答えはすべて知っていた、です。
 ヴィンセントが生まれたばかりのときに医者から余命が30年と告げられたこと、母親からは宇宙飛行士になる夢は諦めるように言われたこと、適正者である弟に遠泳競争で勝ったこと、すべてです。

 作中、ヴィンセントがそのことをジェロームに話すシーンはありません。
 しかしヴィンセントにとってそれらのことは別段話せないことでも何でもないですし、またジェロームが事故の真相を話したにもかかわらず、ヴィンセントは自分のことを具体的に何も話さなかったとは考えられないからです。

 ヴィンセントからそのことを打ち明けられて、ジェロームは最初どう思ったでしょうか?
 ジェロームのことだから平静を装って聞き流す振りでもしたことでしょう。
 けれど内心では驚愕していたはずです。
 単に遺伝子が不適正というだけでなく、寿命が三十年でおまけに心臓に爆弾を抱えているだって?
 にわかには信じられなかったでしょう。
 カルテや医学的な資料を取り寄せ、ヴィンセントの言葉が本当なのか慎重に精査したはずです。
 そしてヴィンセントの言葉が本当であるという確信を得ました。

 普通の人であればこの時点で止めるはずです。そんな身体で宇宙飛行士になろうなんて思うものじゃないと。ヴィンセントの母親と同じように、ですね。

 しかしジェロームは、ジェロームであればそうじゃないと思うのです。
 あらゆることに恵まれていながら金メダルを獲得できなかったことで全てから逃げ出そうとした自分。
 そしてあらゆることに恵まれていないのに宇宙飛行士になるという夢を叶えようとするヴィンセント。
 自分とヴィンセントを比べ、そして決心したでしょう。
 何としてもヴィンセントを宇宙に送り出してやろう、と。

 この決心の意味がわかりますか?
 宇宙に行ったら死んでしまうであろう人間の宇宙行きに協力するのです。
 その決心は尋常ならざるものであったことは容易に想像がつきます。
 ジェロームが、ヴィンセントが宇宙に旅立ったその日に自ら命を絶ったのはまったく不思議ではない、むしろ当然のことのように自分には思えるのです。

 次回は最終回を予定しています。
 『ガタカ』がどういうお話だったのか、もう一度考えてみたいと思います。


                                        続く。
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