『現実の感覚』
巨岩石が宙に浮いている、すでに現実の感覚にはあり得ない状況である。二十六日の月の南中はごく薄い彩色かほとんど見えない、要するに真昼間である。
巨岩石は速度を持たず空中に留まっている、つまり重力がない、無重力空間に位置している。
現実の物理的条件を外したこの景色を『現実の感覚』と称している。現実とは何であったのか、現に今ある状態のことであり、理性と視覚が一致した時空をいう。
感覚・・・雰囲気、外界の刺激を感性(五感)をもって捉えることに他ならないが、この景色を現実と受け入れることは難しい。納得できる説明は皆無である。
否定「これは現実の感覚にはない」という答えに対し、『現実の感覚』を肯定できる情報の積み重ねがない。『現実の感覚』であるという積極的な提示は鑑賞者を惑わす。
むしろ否定することに拠り、描かれていない『現実の感覚』を呼び覚まし、現実に対する感覚を明確に把握しうる意図を感じる。この作品の前で現実の感覚を再確認する意図の内在こそが答ではないか。
写真は『マグリット』展・図録より