日常の隙間・・・事件は日常をひっくり返す。
十年くらい前でしょうか、中央公園の下でスケッチをしていた時のことです。
痴漢・・・彼女はその後通報し、婦警さんを含めた十人近くの警察関係者が物々しく現れました。
後の祭り・・・。
「どんな顔、風体でしたか?」って、意外と覚えてないもんです。
キソコン(昆虫基礎)で、中央公園を散策し、このことを思いだしました。
立つはずのないフレームが直立している不条理のわきで、猟銃は壁に寄りかけられているという自然の理。つまり矛盾した景、時空である。
背景に至ってはは床面と壁に密着しているのか、遥かに隔たりを持つ時空なのかの判別は困難であり領域は無限である。陰翳は光がある空間においてのみ存在するが、暗黒(漆黒の闇)にはそれを探すことは出来ない。
光の届かないほど隔絶した時空は現実にはあり得ず、この景が心象風景である確証となりうる。
心象に通常の約束は通用しないが(PAYSAGE)と書かれたプレートは思考を限定し、風景なのだという断定でもある。わきに置かれた猟銃は目的である焦点の遠さと極めて小さなその一点を指す。暗黒の中のただ一点はわたくし(マグリット)のみが見える宙宇の中の個人的な一点であると。
心魅かれ目を離すことの出来ない景がここに潜んでいる。秘密の景・・・すなわち覆い隠すしかない時空を隔てた異世界への眺望。見ようとしても見えず、見えないからと言って目を離すことの出来ない『風景の魅惑』がここにある。
(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)
〔禁漁区〕 ふん いつものとほりだ
小さな沢と青い木だち
沢では水が暗くそして鈍ってゐる
また鉄ゼルの fluorescence
向ふの畑には白樺もある
白樺は好摩からむかふですと
いつかおれは羽田県属に言つてゐた
☆金(尊い)霊(死者の魂)の句(言葉)は章(文章)から択(より出し)推しはかる。
闇(秘かに)貪(欲張り)徹(最後までやり抜き)考える。
将(あるいは)迫(追い詰める)。
過(あやまち)を迫(追い詰める)果(報い)の講(話)は、魔(人を惑わし害を与える人)の和(争いを治める)。
展(広く見渡し)検(取り調べ)続ける幻(まぼろし)である。
とうとうわたしは、この地位を引受けることにしました。いまここにいるのは、一時しのぎなんです。ペーピが、すぐに酒場を出ていかなくてはならないようの格好のわるい目に会わさないでほしい、と頼んだのです。
☆でも、ついにこのポストを引受けることにしました。ここは臨時にすぎません。ペーピがすぐに酒場(死の入口付近)をあとにするという不名誉にならないようにしました。
全体に暗い荒涼とした絵である。温かみや柔らかい雰囲気は微塵もなく、冷たく淋しい孤独感が漂う。
泣くという激情ではなく、涙も枯れ果てた諦念、時の止まったような時空に風は吹かない。精神の冬、春の来ない冬に救いはなくただ厳然とあるのみである。
『風景の魅惑』を見ていると息が止まり、希望から見放された囚われのような気分になる。猟銃が置かれているが捕獲の意味はなく、焦点(見つめる先)が遠いことを示唆している。遠い、見えないほどに遠い景色に心を奪われている。
この風景に現世の手がかりになるような要素を見いだせない。
暗黒/虚空/虚無…見えないが、しかし確かにそこに在るものを凝視している。
わたし(マグリット)は誰が何と言おうとも、このフレームの中の景色に執着している。魅惑されている秘密の風景がそこに感じられるからである。鑑賞者の意見を聞くつもりのない個人的な内密の風景に誘惑/魅了されている。
「むしろ他人の介入を拒絶する作品である。あしからず」マグリットは、そうつぶやきはしなかったか・・・。
(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)
パート三
もう入口だ〔小岩井農場〕
(いつものとほりだ)
混んだ野ばらやあけびのやぶ
〔もの売りきのことりお断り申し候〕
(いつものとほりだ ぢき医院もある)
☆新しい講(話)〔照(あまねく光が当たる=平等)を願う意(考え)を納める常は、根(物事のもと)也。
倍(同じ数量を二度加えること)の談(話)に、真の恒なる考えが隠れている。
それどころか、この地位を引受けさせるのにわたしをやいやいと口説きにかからなくてはなりませんでした。ここの酒場がわたしになにを思いださせるかをお考えになれば、あなただっておわかりになるでしょう。
☆このポストを引き受けさせようと押しつけられたのです。この酒場(死の入口付近)が何を思い出させるか分かるでしょう。
物理的な風景は見えるが、精神的な風景は形象を伴わず見えない。
見えない風景を見るということである。
フレームという窓から深層を覗き見ることの魅惑・・・不可視だけれど心の底に深く形づくられた景色は、きわめて個人的であり秘密のベールに包まれている。他者には理解しがたい内密の景色に心は常に誘惑され、また魅惑を感じている。
閉ざされている遠い景色、猟銃で狙い撃ちできる距離ではないが、それほどに遠い(わたくしマグリットの一点)を夢想している。
重力下ではない時空に立つ空白のフレーム、傍らに猟銃は赤い血の壁に立てかけられている。つまり《死》を境界とした世界を覗き見る意図である。
背後の闇は限りなく遠い。断絶/異世界/異次元…暗黒/虚空は近くて果てしなく遠い場所である。
誰にも介入できない秘密の時空、そこには魅惑してやまないわたくしの原点ともいうべき《愛》が隠れている。
黙して語る術を持たない『風景の魅惑』である。
(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)