『青い夜』
この画の煩雑さ、一日の終わり休息のひと時はまだ時間を持て余している。横広の画面の並列は続く連鎖の空間を暗示し、安堵に伴うそれぞれの思惑が交差している。
山の上の景である、背景は海のうねりではない。青い空は晩夏の月の夜ではないか。日本の提灯が頭上から照らしている異国情緒あふれる店のテラス。
右端の男女、女はその片手を下ろせば胸が開ける、男を誘っている、しかし男はその誘いに肯きかね迷っている。男の頬が赤いのは酒のせいであり、理性の有無は曖昧である。
白い服のピエロは、興行の収支を計算しているのかタバコを加えながらも厳しい表情ある。その前に見える肩章の着衣の男と芸術家風の男は何を語り合っているのだろう、予測は掴めないが全く異なる職種の相席である。
肩章(軍人・警察官などの階級章)の男を上から窺う女はこの店の女将かもしれない。肩章の男は彼女を見ているかもしれない。(どのような目つきで?)少々の不安はあるが、どこからでも来い!という風情である。
左端の男は寛いだ表情で誰かと話している、商談かも知れないし、単なる日常会話に過ぎないかもしれない。
この画にはこの空間でしか描けない猥雑さがある。各人の心理の交錯、入り混じった空気の日常性は幾つもの物語を孕みつつ同時性の中に集合、あるいは拡散している。
『HOPPER』(岩波「 世界の巨匠」ホッパー)より