続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

鈴木しづ子(私的解釈)寒の夜を。

2021-09-19 07:52:16 | 鈴木しづ子

   寒の夜を壺砕け散る散らしけり

 寒い夜、心も凍えて緊張の糸がプツンと切れる音がする。何もかも…世間の風の冷たさ、わたしは道を外しただろうか。蔑み? いえ、堂々と生きている。生きざるを得ないじゃない。

 わたしを守ってくれる常識の壺よ。
 足並み揃えて、とささやく壺は、こんな寒くて辛い夜に砕け散ってしまった。(これからどうしたら・・・)

 いいえ、こんな壺はわたくし自らが、砕いたのです。


鈴木しづ子(私的解釈)あきのあめ。

2021-09-17 07:38:34 | 鈴木しづ子

   あきのあめ衿の黒子をいはれけり

 秋の雨。物寂しく、終わりを告げる気配である。
 不意に男が耳元でささやく「こんなところにホクロが・・」と。
 男の顔は、男の唇は女に被さる位置にあり、胸と胸がかさなり、予感が走る。
 時が止まる瞬間の高鳴り・・・けれど、この恋はすでに秋の雨と化している。

 未練、離れがたい情念のほとぼり。男は黒子を想い、女は消えない黒子にため息をつく。過ぎた時間に容赦はない。


鈴木しづ子(私的解釈)肉感に。

2021-08-13 07:05:48 | 鈴木しづ子

   肉感に浸りひたるや熟れ柘榴

 熟れ柘榴、それこそかっと割れたる柘榴を目の前に置くと、戸惑ってしまう。
 種を包む赤いゼリー状の液体、流れるでもなく留まって透き通るような真紅。数多の種が真紅をまとって割れた固い皮の中で凝縮している、どこから、どうやって口に入れたものやら判断が付きかねる柘榴の実である。
 指で押しつぶせば赤い汁が滴る、その感触はどこか肉感的である。指でもてあそぶ赤い汁をまとった小さな粒、口に入れれば少し淋しく物足りない。一度にたくさん含めば息が詰まる。
 赤い実を露にした熟れ柘榴は、肉と血の小さな風景。手に持ち、浸っていると、自身の中の血が騒いでくる。


鈴木しづ子(私的解釈)母は病む。

2021-07-28 07:03:52 | 鈴木しづ子

   母は病む十薬の花咲きさかり

 十薬は薬効が多いと聞く。十薬は地下茎深く(40㎝くらい)どこまでも広がるので花のころは、まさに咲きさかり、白い点在が一面に続く光景を目にすることがある。

 こんなにたくさん、こんなに薬効のある十薬が咲いているのに、病む母を救済する術が見つからない。
(お母さん、どうしたらいいの・・・どうしたら、あなた治すことができるの)

 純白の花と緑葉の清廉、十薬の群落を見る目に映る愛する母の病床。切ない娘の心情である。


鈴木しづ子(私的解釈)コスモスなど。

2021-07-25 07:00:54 | 鈴木しづ子

   コスモスなどやさしく吹けば死ねないよ

 陽の当たる場所で育った美しくも可憐なコスモス。南風吹けばそのように、東風吹けばそのように、みんな揃って靡く従順。
 健気・・・細く長く伸びた茎のしなやかさ、存外の強さは胸を打つものがある。

 吹く風に負け、それでも抗って生きているわたし。絶望、ひがみ、口惜しさ…コスモスはいいなぁ、立派だよ。大輪の驕りもなく静かにやさしく笑っている。

 コスモスなんかに負けない! いいえ、コスモスの優しさに励まされている。この優しい救いを拒めない。死んではならないと、コスモスは唱っている。


鈴木しづ子(私的解釈)風鈴や。

2021-07-21 07:12:08 | 鈴木しづ子

   風鈴や枕に伏してしくしく涕く

 風鈴の音! ガラスに触れる金属音・・・なぜか巡礼の鈴の音にも似た音域がある。
 一つ積んでは父のため 二つ積んでは母のためと、心もとなく石を積み重ねていくような寂寥感、そして孤独。

 風なき風の音、胸の底よりこみ上げる恋情、伏した枕に忍び寄るのは風だけ。泣いてみようか、母に叱られた子供のように、しくしく涕いている。


鈴木しづ子(私的解釈)甘へるより。

2021-07-15 06:57:43 | 鈴木しづ子

   甘へるよりほかにすべなし夾竹桃

 清廉に見える花の樹の強力な毒、燃やした煙にさえ毒素があるという。この枝を箸にお弁当を食べて死亡した記事を読んだこともある。

 この木だけは触れてはいけない、まして甘えるなんて存外。でも、わたしの中の悲しみは愁いなどというロマンの域ではない。

 毒を以て毒を制すというが、治療のための優しい毒では効かないほどの地獄。何をもってしてもこの残酷なまでの泥沼と手を結ぶことはできない。幾重にも重なる絶望感にどん底まで突き落とされているこのわたしと手を睦び、心を許せるものは死に至らしめるほどの毒を有した夾竹桃しか見当たらない。

 ああ、夾竹桃、夾竹桃にならば・・・。


鈴木しづ子(私的解釈)梅雨の葉よ。

2021-07-13 07:00:26 | 鈴木しづ子

   梅雨の葉よ嘆かるる身の常にして

 梅雨の葉、街全体は雨に煙り沈んでいる。
 雨、雨、雨の日々は街の活気を奪い、人々の足を留め、嘆きの声すら聞こえる。

 でも、ふと目にした木々の葉、濡れているからこそ美しく輝く活性、秘かな華やぎがある。ああ、父母身内に、それとなくいつも非難めく嘆きを受けているわたしの日常にも、秘かに自分を主張できる時の間があるやもしれない。


鈴木しづ子(私的解釈)雪の夜を。

2021-07-12 06:58:39 | 鈴木しづ子

   雪の夜を泪みられて涕きにけり

 雪の夜を、の(を)は何だろう。(に)でなく(を)である。
 時間の経過、夜に経過した時間の幅かもしれない。

 雪は景色を同質にする。しかし夜の暗さは神妙さを加え、孤独をより深くする。震撼とする夜の冷酷には死の扉さえ微かに見え隠れするが、この神秘の空間は安堵をも誘い、わたしに優しい。

 浄化、わたしの中の懺悔や毒を夜の雪は昇華するようだと思った瞬間、こみ上げるものが・・・見られただろうか、わたしは涕いたかもしれない。神秘の闇はわたしを涕かせたのです。


鈴木しづ子(私的解釈)雪粉粉。

2021-07-05 06:58:42 | 鈴木しづ子

   雪粉粉いのち粗末に酔いにけり

 雪、雪、雪…辺りは白く霞んで何も見えない。吹雪である。わたしは隔絶された世界にただ一人。陽は射さず周囲は暗く灰色、恐ろしいまでの孤独、このまま凍り付いて・・・やがて。

 投げやり、あきらめ、焦りの欠片・・・。もうどうでもいいという最悪。この状況に立ち向かうまっとうな姿勢は雪崩と化した。

 自分が粉々に崩壊していくという恐怖、恐ろしいまでの放棄。放り投げた自分を彷徨いながら見つめている。これが酔いでなくて何であろう、覚める望みはあるのだろうか。ひたすら酔って酔って自分を粗末にしている。