先月ある方から、ここでサケが産卵していたという情報をいただいた。
場所は、ウヨロ川のすぐ近くの道路の傍の雨水の排水溝だ。
後日その写真をいただいた。11月5日の写真だ。サケが道路脇の雨水の排水溝に熱心に産卵している様子だ。
もう一枚は、近くの道端にあるサケの死骸だ。産卵が終らないうちに、一足早く力尽きたオスかもしれない。
なんでこんな所に生むのだろう。
大雨でどこが川かわからなくなるほど増水して、排水溝にとり残されたなら、分らないでもないが、2~30mも下ればイサカナイ川へ戻れるし、更に200mほど下ればウヨロ川本流に戻る事ができる。なぜ戻らなかったのだろう。どこで生まれたサケなのだろう。
どうしても納得できないので、年末に現地を調べてみた。
しばらく雨が降っていないのに、産卵していた「排水溝」には、水が流れていた。
流れを辿ると、何かの作業の為に使われていたと思われる道を横切り、イサカナイ川の小さな支流につながっていた。放置された簡易トイレも見える。
かつての流れの痕跡がおぼろげながら残っている。
昨年(2014年9月)の大雨で流れが変わったのだ。
流れに沿って遡ってみた。
数百m先まで行くと、サケが産卵しそうな場所が20mほどの長さであり、これより先は浅すぎて遡上は無理だろう。川の水は3℃、礫の内部の水温は7℃ほどあった。
あのサケは、この川で産まれた可能性がある。
いや、数年前に間違いなくこの辺りで生まれたのだろう。
北太平洋から遥々、この小さな川のこのあたりを目指して帰ってきた。
しかし、川の流れが変わってしまい、ここまでしか遡上できなかった。間違いないだろう。
では、なぜこんなに生まれた川に帰ろうとするのだろう。
自分が生まれて育った川だ。そこに生めば自分と同じように、子供も間違いなく育つ。
そんなプログラムが親から子へと受け継がれているのだろう。
では、どうして生まれた川を知り帰る事ができるのだろう。
北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター 上田 宏 教授が、その一部を科学的に明らかにしている。
⇒サケの感覚機能と母川回帰(バイオメカニズム学会誌)
生まれた川へ帰ろうとする執念、子孫を残す事への執念 そのすさまじさに圧倒される。
ますます、生き物としてのサケの魅力に取りつかれそうだ。
笹薮に、ヒロハノヘビノボラズの実がまだ残っていた。