スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

ハイデルベルク大学教授&朝倉の論考の前提

2014-05-03 19:07:27 | 哲学
 ユトレヒトへの招待の理由についてエントリーしたおりに書いたように,スピノザには大学教授就任の要請がありました。『ある哲学者の人生』によると,これは1673年2月のこと。当時のドイツ連邦のひとつであったプファルツの選帝侯からの要請であったそうです。『神学・政治論』はすでに出版された後で,実名は伏せられていたとはいえ著者がスピノザであったことは公然の事実でした。もっとも,ナドラーは選帝侯自身はその内容をよく知らなかったと推測しています。要請の手紙は代理人であるファブリティウスによって書かれたのですが,ファブリティウスは『神学・政治論』を読んでいて,その内容にはむしろ反感を抱いていました。選帝侯にスピノザを推薦したのはフランス人のシュブローという人物。当時のハイデルベルク大学は1660年以降,哲学正教授が不在。それ以前に務めていたフレインスハイムという教授がデカルト学派であり,選帝侯はそれに似た考え方の哲学者を探していて,スピノザを推薦されました。
                         
 3月になってスピノザは断りの手紙を書きました。決断に時間が掛かった理由についてスピノザは,自分が公的教育に関わることを想像したことがなかったからだと書いています。ただその間,自身がその職に就けるのかどうか,真剣に検討し,ファブリティウスの弟の著作などもわざわざ入手しています。
 要請を断った最大の理由は,キリスト教を壊乱しているように見えることを回避するために,哲学する自由の制限が必要になるとスピノザが判断したため。公的教育に携わらなければ,その自由,スピノザはこの手紙の中では平和ということばを用いていますが,それをある程度は保持できると確信していたからでした。
 このスピノザの判断は賢明なものであったと僕は思っています。教授職という名誉とか,それに伴う収入もスピノザには魅力的であった筈です。しかしスピノザにとってそんなことよりも哲学する自由を確保することは,比較にならないくらい重要であったと思われるからです。ハイデルベルク大学は,哲学正教授を得るのに,まだ時間を必要とすることになりました。

 朝倉と福居は互いが互いに対して何も言及していません。ですから双方がもう一方の考え方をどのように捕えているのか,あるいは肯定的であるのか否定的であるのかということは,僕にははっきりとは分かりません。一方,佐藤に関しては両者が言及していて,必ずしも全面的に肯定しているわけではないということは,僕にも分かります。ただ,僕からすれば,無限の一義性の把握の仕方に関して,この三者は共通です。この三者は実体および属性の無限性によって無限を規定し,無限様態の無限性についてはそこから除去しています。そしてこの部分が僕の見解と異なる部分です。ですから朝倉が最終的に,ふたつの個物res particularisとres singularisを異なった概念と把握し,もしもその把握の仕方に佐藤が異を唱えるのだとしても,それは僕と佐藤および朝倉との間で,ある亀裂が発生してから以後のことになります。よって朝倉の今回の僕の考察主題との関連について分析するときに,間接無限様態がres singularisそのものであるということを前提していて,この条件が最終的な朝倉の結論とは異なっているのだとしても,何も問題とはなりません。なので出発点として,間接無限様態はres singularisそのもの,res singularisに類するものではなくてres singularisそのものであるということを措定します。
 朝倉の主張では,この見解自体がまず,res singularisには有限であるという側面と,無限であるという側面の両方があるということへの注目から生じています。つまり佐藤の考え方の中心は,res singularisが有限であるという理由によって,無限様態と切断されるわけではない,あるいは切り離されるべきではないという点にあることになります。
 僕は『個と無限』を未入手なので,この朝倉の主張の正当性は不明です。ただ佐藤の論点の中心が,たとえば実体と様態との間にあるのではなく,様態にとっての二種類の因果性,具体的には垂直と水平の因果性にあるのだとすれば,朝倉のように佐藤の議論を理解することは,おそらく正しいのではないかと思えます。

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