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岩手脳神経外科談話会

2010年06月09日 | 学会/研究会
先日、岩手医科大学脳神経外科の小笠原教授に講演に呼んでいただきました。
小笠原教授は日本のリーダーの一人で、とても温かいお人柄の先生です。
しかし外科手術を多くこなしながら、大変アカデミックな論文をバンバン書かれる方で、私は非常に尊敬しています。
そんな先生にお呼び頂いたのです。
私が急性期脳梗塞、虎ノ門病院の松丸先生が脳動脈瘤の血管内治療について話してきました。二人ともとても緊張しました(写真)。

しかし今回、岩手医大に呼んでいただいたことは、自分にとってはもう1つの意味がありました。
私の左の先生は岩手医大の学長をされている小川 彰先生です。先生は脳血管障害の重鎮であり、脳血管外科手術のトップランナーとして活躍されてきました。
その一方で、脳血管急性閉塞に対する血栓溶解療法に関する臨床研究の主任研究者も務められています。そう、あの「MELT Japan」です。
手術も臨床研究も超一流の小川先生は、まさに「泣く子も黙る」脳外科学会のカリスマなのです。

その方に、国循のレジデントの頃、私ははじめてお目にかかりました。
岩手医大と秋田脳研、そして国循の3つで、安比高原というスキー場で第一回安比カンファレンスが開かれた時のことです。
スキー好きの私に、当時の塚原医長が「先生、血管内治療のこと出してよー」と声をかけてくれました。
私は「発表すればスキーにいける!」と直感し、「ぜひ!」とお返事しました。
そして、安比で一滑りした後、夜の会で、「椎骨動脈の血管拡張術」について得意げに発表しました。
すると、橋本部長はニコニコしてくれているものの、なぜか会場は「シーン」としています。
「あれ、つまらなかったかな?」と思いきや、最前列のカッコいい先生に
「再狭窄」や「治療合併症」について矢継ぎ早に鋭い質問をされました。
一瞬たじろぎましたが、血気盛んだった私は、「もうすぐステントも使えるようになりますし、10年たてばこの治療法が第一選択になります!」と言ってしまったのでした。
会場はますます「シーン」。何か変な緊張感が漂っています。
発表が終わると、会場からは私に好奇の目が..。いったいなんなんでしょう?

宴会になり、先ほどの最前列の先生が岩手医大の小川教授であり、なんでも椎骨動脈の手術で日本の権威とのこと!
「やってしまった...」と気づきましたが、後の祭り。
すぐその後に小川先生に「おい、お前、ちょっと来い」と、呼ばれました。
「怒られる!」と思いましたが、「まあ飲め!」と。そして「お前は間違っている、というか、この手術の良さを知らない。それを知らないで血管内が第一選択になるなんて言い過ぎだ」、と諭されました。
あれ、思ったより優しい。
これが小川先生との出会いでした。

その後、小川先生はさらに有名になられ、日本のトップに上り詰められました。
いつも会場から壇上の小川先生を見ながら、「あんな偉い先生に、自分はなんてことを...」と思っていました。
しかし、自分は自分で血管内治療と手術の両方に情熱を燃やして、ずっとトレーニングしてきました。
ですから今回は「15年経った自分を見てください」という感じの発表をしました。

小川先生は発表後、早速コメントを述べてくださって、
「あれから血管内治療がずいぶん進歩したことは認める。ただし苦言を呈したいこともある。」とおしゃられ、「内頚動脈の閉塞は新しい血管内治療をもってしてもうまく行かないだろう。だから治療しない方がいい。」と意見を述べられました。
15年越しの和解ムードに、「迎合しようかな」と思った矢先、座長の小笠原教授に、
「上司に従うのではなく、けんかしてでも意見を言うのが良い部下です。遠慮なく。」と言われ、
「内頚動脈閉塞症についても、きっと突破口を見つけます。」とまたもや大見得を切ってしまいました。
そして小笠原教授に「では先生、5年後またお呼びしますからその時に報告してください。」
とコメント頂きました。

今回、小川先生と小笠原教授に頂いた宿題。これから何年かかろうともきっと突破口を見つけ、ぜひご報告に上がりたいと思います。先生方のご厚意に心から感謝申し上げたいと思います。
コメント (2)
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