脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

くも膜下出血ークリッピング術 その5 クリッピング

2008年09月28日 | くも膜下出血
シルビウス裂がきれいに開放され、脳動脈瘤がはくりされたら血管をよく観察します。
動脈瘤が見えると、そこに処置を加えたくなりますが、ぐっと我慢して、動脈瘤よりも心臓側(近位側)をはくりします。
これさえできれば、大事故はありません。
動脈瘤が破裂しても血流をコントロールする事が出来るからです。
その後、動脈瘤の根元(ネック)をはくりします。

さてクリップには2種類ある事を知っていますか?
1つは動脈瘤を処置する為のクリップで、永久にかけておくので、パーマネントクリップ(permanent clip)
もう1つは動脈瘤ではなく血管の遮断に使う一時的なクリップで、テンポラリークリップ(temporary clip)
といいます。

通常は動脈瘤よりも心臓側の血管にテンポラリークリップをかけて血流を止めてから、パーマネントクリップを動脈瘤のネックにかけます。そしてテンポラリークリップをはずすのです。
こうすれば動脈瘤が破裂しても、大出血しないため視野がさえぎられずに治療が出来ます。
安全第一ですからね。

普通のサイズの動脈瘤はこのように治療されます。
イメージがホームページにあるので見てくださいね。
http://www.e-oishasan.net/doctors_site/yoshimura/treat02.html
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どこでも紹介してください

2008年09月23日 | 閑話休題
hira/iさんからこのブログの内容を別のサイトに紹介していいかどうか問い合わせがありました。
このブログはいずれ編集して出版したいと思っています。
正しい情報を多くの方に知って頂きたいのです。
ですので、ここにある情報が欲しい方にはどんどん転送して頂いていいです。
どこでも紹介してください!

    

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くも膜下出血ークリッピング術 その4 シルビウス裂開放

2008年09月21日 | くも膜下出血
いよいよ頭の中に入ってきましたよ。
クリッピング術をする時に最も重要なのは、脳と脳の隙間をきれいに分けることです。医学的には剥離(はくり)と言います。
昔は脳をむりやり引っ張って治療していましたが、現在は脳と脳の隙間を、血管を切ることなくきれいに広げることが良い治療成績につながると考えられています。
実際、脳の表面の静脈を焼いてしまうような手術の治療成績を見たことがあるのですが、術後に脳がはれたり出血したりと大変なことになってしまいます。

さて、その剥離の方法にもいろいろありますが、最近は脳と脳のすきまにある「くも膜」をハサミで切りながら進んでいく方法が良いとされています。
この方法は「sharp dissection (鋭的はくり)」と言われており、私が国立循環器病センターにいた頃、当時の部長の橋本信夫先生に教えてもらいました。
当時は動脈瘤のそばの組織をハサミで切るのを見て大変驚きましたし、「ちょっと危険じゃないのか」と思っていました。
器用な橋本先生だからできる技術とも思いました。
しかし、操作を誤って血管や動脈瘤に切り込むことさえなければ、血管や動脈瘤への力が加わらず、脳表の細かな血管が傷つかないので大変きれいですばらしい方法です。
今や世界的にも主流の方法となりました。
やはりいい方法というのは自然に広まるものなんですね。
現在は私もシルビウス裂や動脈瘤の剥離は、ハサミを使ってsharpに行っています。
動脈瘤をきれいに剥離できれば、クリッピングは非常にやりやすくなるのです。

さてシルビウス裂というのは前頭葉と側頭葉の間のスペースで、クリッピング術において最もよく通過する場所です。
ここをきれいに分けるのがクリッピング術のこつです。
若手脳神経外科医のクリッピング術の一つの壁、それがこの「シルビウス裂をきれいに分けること」なのです。

どうしたらうまく分けられるようになるんでしょうね?
数をやればうまくなる?
もちろんそうです。
練習法は?...
あるんですよ。
次回紹介します。
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主治医をさがす (hira/i)について

2008年09月13日 | 閑話休題
hira/iさんの、「主治医をさがす」についてコメントします。

もやもや病のバイパス術をしたのに2度も出血したとのことで、大変お気の毒です。
私はたくさんのもやもや病患者さんに手術をしてきましたが、幸いそんなことはこれまでありません。
実はもやもや病の患者さんのバイパス手術にもいろいろな方法があります。
特に小児では血管が細いため、直接血管をつなぐのが難しいとされており、筋肉や硬膜を脳に接触させるだけの「間接吻合(ふんごう:けっかんのつながりのこと)」という手術法も行われています。
小児では間接吻合術でも、ある程度自然にバイパスが出来るのです。
しかし大人ではあまり間接吻合が形成されない症例があります。だから直接吻合術を必ず加えないといけない。
一方、小児でも術者に技術があるのならまず直接バイパスを行います。なぜならその場で血流が改善するからです。
私は小児でも成人でも直接吻合術と間接吻合術とを組み合わせて手術しています。
これまでの治療成績は極めて良好で、これが現時点のベストの術法であると考えています。

さて間接吻合術にもいろいろな方法があるのですが、バイパスがちゃんとできる脳外科医ならやはり直接吻合術が基本です。
私は国循とチューリヒ大学でバイパスのトレーニングを積んできて、今やバイパスばかりしている週もあるぐらいで、「バイパスおたく」を自認しています。
だからなのかもしれませんが、これまで「頭をあけたけどつなぐ血管がなかった」なんてことは一度もありません。小児でも必ず2本の血管をつなぐようにしていますし、前大脳動脈というかなり末梢の部分にも直接バイパスを行っています。

本音トークですので正直言うと、「間接吻合術しかできなかった」という場合には、「つなぐ血管がない」のではなく、その術者に「つなぐ技術がない」ことが多いんです。
もやもや病のバイパス術は特別です。
この手術においては、0.5mm-0.6mmという細く壁の薄い血管をつなぐ自信がない場合には、最初から経験と技術のある人に任せるべきだと思います。
そのサイズの血管は必ずあります。太い血管しかつなげないから「いい血管がない」ということになるのです。
もやもや病のバイパス術は緊急手術ではないので、患者さんは他院に紹介されてもまず困りません。
頭をあけて「あー、つなげない」なんてことになったらたまりませんが、残念ながら術前の検査では脳表の血管の太さまで分からないので、実際に起きうることなのです。
治療前に太さが分かるようになればいいんですけどねー。まだ無理なんです。
だから細い血管でもつなげる人だけがもやもや病の術者になる。
私たちはずっとそうしています。

さて、術者としてもやもや病のバイパスをどうしてもやりたいのなら、吻合術の練習を徹底的にすることです。
それでもなかなかもやもや病のバイパスはやりにくい。それは前述のように通常より血管が細くて壁が薄いからです。
ですから、そういう志のある人は、経験のある医師とともに技術を磨く必要があります。

さて、コメントに対する私の結論です。
もやもや病の患者さんは、もやもや病の治療経験が豊富なドクターに診てもらうこと。これが大切です。
血管の手術はしていても「もやもや病のバイパスはあまり...」という人もいるからです。
もちろん、腫瘍の専門家じゃダメですよ。
参考にしてくださいね。






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くも膜下出血ークリッピング術 その3 開頭

2008年09月07日 | くも膜下出血
開頭術、怖い言葉ですよね。
「あたまカチ割るんですかあ?勘弁してください。」と言った患者さんもおられました。
そうですね。切らずにすんだ方が安心ですね。
でも切らないと治療できない場合は仕方がないですよね。

今回は開頭について説明します。
頭をあけたら死んでしまう!なんて思ってしまいますが、人間強いもんです。
90歳の人でも、頭をあける手術をしてもピンピンしている人がいます。

さてその方法は?
手術の前によく聞かれます。
「骨はどうやって開けるのですか?」
「外した骨はどうするのですか?」

上の図のように、
A) まず骨に何カ所かドリルで穴をあけます。
このドリルは開頭専用のもので、骨を貫通するとドリルの先端が止まるようになっていて、脳や脳を包む硬膜を傷つけません。
B) 次にこの穴を骨切りでつなげます。そうすると骨は簡単にはずれます。
C) そして手術中は生理食塩水に浸しておいて、最後にもどします。
以前は手術用の糸で固定していましたが、最近ではチタンプレート(上図)でしっかりと固定します。
この固定はかなり強く、固定直後に頭をぶつけても大丈夫なほどです。

謎が解けましたか?
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ライブカンファレンス

2008年09月06日 | 閑話休題
最近、たくさんの講演を依頼していただいてほんと光栄です。
このところ、自分が自分でないみたいな感じです。
どうしたんだろう...

今日も神戸に来ていて、神戸市立病院の坂井先生のライブカンファレンスに出席しました。
ライブとは手術室から会場に中継されて、術者と会場の司会者やコメンテーターが会話しながら進んでいくというものなのです。
これまで脳外科領域ではあまり行われてきませんでした。
坂井先生はその草分け的な存在です。
私もコメンテーターをさせていただいているのです。
坂井先生は日本でも一番たくさんの症例を治療されていて、この業界のカリスマなのです。
でも「俺は自然児やー」といって、病院の中ではTシャツと短パン、裸足で歩いていたりして、かなり面白い人です。
今をときめく人なのに、きどらず、面白いキャラクターなんです。自分の最も尊敬する先生の一人です。
手術もたくさんしているのですよー。
だから話が合うのです。

他にもこの会に出席するような人たちは、血管内手術の世界では有名人ばかりです。
自分がまだ無名だった頃、「すごいなあ」と思っていた人たちと同じ壇上でお話ができる。
これは夢か?と思うことがよくあります。

さてさてしかし今年の夏は会が多すぎてまだ夏休みが取れていません。
というか7月からずっと土日なしです。
よく持つよなー、我ながら。
でも「講演に来てほしい」「手術の応援に来てほしい」なんて言われると「私みたいなものでよければいつでも!」となってしまうんです。
携帯電話のスケジュール表が私の秘書さんです。
これがなくなったら...と思うとぞっとします。
でも最近この携帯もちょっとくたびれてきているみたいです。
100件までしか予定が入らないし、音は小さくなってきたし。
そろそろ替え時かな。

携帯もいっぱい種類がありすぎてどれがいいのか分からない。
気になるのはiPhoneだけど、だれか持ってますか?
どうなんだろう。
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くも膜下出血ークリッピング術 その2 皮膚切開

2008年09月02日 | くも膜下出血
次に皮膚の切開についてです。
これは生え際より上の、髪の毛の中で行うことが普通なので、手術後はあまりめだちません。
以前は眉毛のそばに小さな皮膚切開をおいてカギ孔手術をしたこともありますが、最近は成績を重視してスタンダードな皮膚切開で手術しています。

お話ししたいのは髪の毛のことです。
私が研修医の頃は、「髪の毛は汚い!」ということで、髪の毛をそるのが一般的でした。
ちょっとの手術でも全剃毛、つまり頭全体をつるつるにしていました。
出家でもあるまいし。

さらには治療前に頭を出来るだけ消毒でゴシゴシとこすれと教わりました。
ある会では、「だまされたと思って30分ブラッシングしてみてください、感染しません」と偉い先生が言っておられました。

しかし医学は進歩し、「剃毛や過度のブラッシングこそが悪い。皮膚についた傷に菌が繁殖し、それがもとで手術時に感染が起こる」と言われるようになってきました。これは頭だけでなく全身にあてはまります。
実は私は研修医の頃はこの「全剃毛」を得意としており、「お前は医者がだめでも床屋になれるぞ」と上の先生に言われていた程です。「さかぞり」名人だったのです。
しかしその私が現在は無剃毛、つまり髪の毛を全く剃らずに手術をしています。
髪の毛は消毒さえしてあれば大丈夫なのです。
髪の毛をきれいに分けて、そこから皮膚切開をする。
手術が終わって髪の毛を下ろすと、長い髪の女の人などは圧巻です。
全く手術の跡が見えないのです。ちょっと感動です。
女の人にとって「髪は命」だそうですから...
おっと、差別はいけない、男性も無剃毛で手術していますよ。
今日も動脈瘤のクリッピング術をしましたが、髪の毛の少ない方でしたので「無剃毛」で美容的に治療しました。
手術も2時間で済んで、患者さんは元気です。
良かった良かった。

しかし、私が磨きに磨いた「さかぞり」技術は、今やお蔵入りとなってしまいました。

(っていうか、そんなたいそうなもんでもないか...)

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Matrix その後2

2008年09月02日 | 閑話休題
昨日出張治療で動脈瘤の塞栓をしました。
そこでもMatrixを使ったのですが、カテーテルの中で抵抗がありました。
一緒に治療を行った先生にははじめての経験だったと思いますが、コイルが絡まってしまいunravelしたためマイクロカテーテルごと一旦抜去しました。
その後、もう一度入れ直してからはまず今までの普通のコイル(bare metal coilといいます)を入れて、その後またMatrixを追加。
最終的にはもう一種類のバイオアクティブコイルであるCerecyteを入れて治療を終了しました。
患者さんはすぐに麻酔から覚めて経過は良好です。

うーん、まだまだ奥が深いな。Matrixは。
今までのコイルと同じと思って使ってはいけない。
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