脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
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くも膜下出血ー治療法選択 コイル塞栓術

2008年07月25日 | くも膜下出血
今回は破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術をお話しします。
この治療法は「切らない治療」「体にやさしい治療」として最近注目を浴びています。
実際、局所麻酔でも治療できます。
しかし私は破裂脳動脈瘤の場合には最近は全身麻酔で治療を行います。
なぜなら患者さんが安静を保てず術中に動いてしまうことが多く、これが治療成績に大きく影響するからです。
また術中破裂などの場合にも、全身麻酔の方がいいのです。

さてコイル塞栓術の方法を紹介します。(未破裂のところである程度紹介したので、簡単にしますね)
まず足の付け根から親カテーテルといわれる少し太めの管を頸動脈などに入れます。
次にその中にマイクロカテーテルという細い管を入れて動脈瘤の中まで誘導します。
あとはプラチナで出来たコイルを瘤の中にうまくおさめてつめていく。
というシンプルな方法です。

この治療については大きな議論がありました。
クリッピング術が難しい場所に動脈瘤があったり、重症の症例に行われはじめたのですが、全身状態のよいクリッピングが可能な患者さんに応用されるようになると「コイル塞栓術は根本治療にはなり得ない!」との反論が出始めたのです。
確かにクリッピングでは瘤を完全につぶしてしまうのに対して、コイルは瘤の中にものを入れたのに過ぎません。
ちょっと心配があります。
一方、実際に治療を行うとコイルの方が成績がいいように思われます。
くも膜下出血の患者さんが治療当日に食事や会話が出来るなど、開頭術ではなかったことです。
回診に行って患者さんが新聞を読んでいて驚いたこともあります。
でも根治性に不安がある。

いったい、どちらの治療法がいいのでしょうか?
世界中の脳卒中に関わるドクターが疑問に思っていました。
そして2002年に重要な発表があったのです。
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くも膜下出血ー治療法選択 クリッピング術

2008年07月20日 | くも膜下出血
くも膜下出血の原因が破裂脳動脈瘤である場合には、放置すると50-70%が再破裂で命を失うと言われています。
このため何らかの止血処置が必須です。現在、開頭手術によるクリッピングと血管内手術によるコイル塞栓術の2つがあります。

まずはスタンダードとされるクリッピング術について紹介します。
テクニックの細部については別の機会に紹介しますね!

さてクリッピング術の歴史は古く、長期の安全性が確立しています。止血効果も確実です。
頭蓋骨の一部をあけ、顕微鏡を使って脳のすきまを広げ、動脈瘤の根元にクリップをかける方法です。
この治療の良い点は、動脈瘤の形に関係なく完全な処置が出来ることです。
とくに動脈瘤のねもと(ネック)の広い動脈瘤や動脈瘤から枝がでているようなケースではクリッピングが最善の治療法となります。
また動脈瘤の処置が完全なので、再治療が不要なこと、退院後の外来通院が早期に不要となることがこの治療の利点です。

ただし欠点もあります。
1)全身麻酔が必要なこと。
  ただし最近は麻酔が良くなったので、麻酔自体による問題はまず起こらないと考えても良いくらいです。
2)開頭が必要なこと
  「頭をあけられる」というのは、不安なことですよね。「それだけでおかしくなってしまうのではないか?」と心配される方もおられます。この点を強調するとまず「手術はやめてくれ」ということになりがちですが、皮膚の切開は髪の毛のはえている中で行いますし、外した骨もチタンでしっかりと固定するので見た目にまず分かる様なことはなくなりました。自分の患者さんでも外来に来られる頃には「左右どちらでしたっけ」ということがよくあります。
3)脳をさわるということ
  これは脳には何かしら影響があります。同じ全身麻酔の手術でも脳にさわらない手術に比べれば、やはり少しは脳に影響があるというのは脳外科医自身がよくわかっているところです。未破裂脳動脈瘤のように頭蓋内圧が高くなくて血液が全くない術野では脳表の損傷は最小限で済みますが、くも膜下出血ではもともと脳圧が高くなっており、出血で血管が十分に見えない場合があるので脳にある程度損傷がおきます。元通りになることの方が多いのですが、脳圧が非常に高い状態で無理に手術をすると不可逆的な損傷が起きてしまいます。
4)血管のはくりが必要なこと
  動脈瘤にクリッピング術を行う時には、脳動脈瘤の周囲の血管をきれいに外しておく必要があります。そうしないとクリップをかける時に大事な血管を一緒胃挟み込んでしまうからです。このときに血管損傷が起こりえます。

どうでしょうか?
クリッピングの手技の詳細については後日述べますがだいたいイメージが出来たでしょうか?
http://www.e-oishasan.net/doctors_site/yoshimura/treat02.html
に画像がありますので一度みてくださいね。
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くも膜下出血ー治療法選択 その前に3

2008年07月11日 | くも膜下出血
第二に、脳卒中や頭部外傷などの救急疾患を扱うドクター達が、若手が補充されないために徐々に疲れてきて、燃え尽きて辞めてしまう。リハビリ医になったり開業してしまう。最近そういう先輩方が増えてきました。無理もないことです。第二の人生として応援したいと思っているほどです。

考えてみれば、私が研修医で入局した頃は
「お前らの学年ではもう部長にはなれない。脳外科は開業できないんだからどんどん医者がたまっていく。2番手ぐらいにしかなれないよ、かわいそうに」と言われていました。まあ、その年で「部長になりたい」など思ってもいませんでしたが。
それがあっという間に変わってしまいました。先輩達がどんどん開業したりリハビリ医になっていく。開業の先生達もみんな成功しています。昔は開業はあきらめて選んだのに、時代のニーズが専門医を求めているのです。ほんと先のことなんて分からないもんですね。

 さて話を戻します。現在の研修医制度が継続し、この状況が続けば脳神経外科医は減りつづけるでしょう。現に、我々の周囲でも中小の病院からすでに脳神経外科が撤退し始めています。それぞれの地区の地域医療、救急診療を支えたいという思いはあっても、全く同じ診療を以前より少ない人数で支えるのはまず不可能ですし、内科医や麻酔科医が減少した施設での手術や診療はそれまで以上に危険が伴います。ドクター達も長期にわたって一人二役では燃え尽きてしまうのです。
 ですので、今後は脳外科の診療はもっとセンター化されていきます。と言うとかっこいいですが、つまり各地区からどんどん撤退していくということです。近くに脳外科がない...ということになるわけです。
 しかし考えてみれば限られた施設でしか手術をしないというのは、欧米に近い形ということで悪いことではないのかもしれません。少数の経験しかないドクターや施設がなくなり、多くの経験を持つセンターばかりになるわけです。でもそれまで脳神経外科医の常駐施設だった病院には大きな痛手となりますから撤退の際にはもめますよね。

皆さんはどう思いますか?
コメント (2)
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くも膜下出血ー治療法選択 その前に2

2008年07月11日 | くも膜下出血
本当に脳神経外科医は足りないのでしょうか?
日本脳神経外科学会のホームページには脳神経外科専門医が約6500人いると記載されています。
この数は世界的に見ても非常に多く、「脳神経外科医は余っている」という言葉の根拠はここにあります。
しかし現場では足らないと言っている。
実はここには複雑な要素が絡み合っているのです。

まず第一に「脳神経外科医」ではあっても全員が手術をするわけではないのです。
脳神経外科医にも色々あります。
 脳卒中や頭部外傷などの救急疾患を扱うドクター
 脳腫瘍の診療を行うドクター
 脊髄疾患を扱うドクター
 小児神経疾患を扱うドクター
 リハビリを専門にしているドクター
 主に外来や内科的管理をしているドクター
 研究を主にしているドクター
などです。どうです?すごく細分化されてきているのです。以前に比べてどんどん細分化されそれぞれの分野のレベルが上がっているのです。これ自体はすばらしことですが、例えば小児神経の専門家がクリッピングを行うことはまずありません。逆も然りです。ですので、一番上の「脳卒中や頭部外傷などの救急疾患を扱うドクター」だけを数えた場合には6500人よりずっとずっと少ないのです。
 知っていましたか?
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くも膜下出血ー治療法選択 その前に

2008年07月10日 | くも膜下出血
いよいよくも膜下出血の治療法選択です。
その前にちょっとお話させてほしいことがあります。

以前はくも膜下出血の患者さんには開頭手術(クリッピング術)をするしかありませんでした。
どこの病院でも治療が出来るわけではなく、脳外科がちゃんとあって、その人がクリッピングが出来るかどうか、それにかかっていました。
くも膜下出血の患者さんは頭痛や意識障害でまず近くの病院に運ばれてくる。
しかも短時間に再破裂して死亡してしまうことも多い。
ということで遠距離の病院までは移動しにくいのです。
だからそれぞれの救急病院には切実な問題でした。

さらに、クリッピング術の手術手技料は大変高い(72,000点、つまり72万円)。
手技料だけで72万円!
従って当時どこの病院も、「1人でも2人でもいいから常勤医になってクリッピングをしてほしい!」と脳外科の開設を希望しました。
その結果、日本中に「クリッピングが可能」な脳神経外科医の常駐施設ができました。
どこで倒れてもクリッングがすぐに受けられる!
日本はすごいですね。
このため当時、ほとんどの若手脳神経外科医の目標は「クリッピングができるようになること」でした。
クリッピングは「絶対に出来ないといけない」、逆に「それさえできれば身を立てられる」、最重要の手術でした。
今でもそれを目標にしているドクターが大勢います。

しかし最近になって少し様相が変わってきました。

実は数年前まで脳神経外科医は余っていました。
脳外科医が多すぎるので一人当たりの手術件数が少なくなってしまう。
日本脳神経外科学会でも「脳外科医一人当たりの経験数が減ってしまう中で、どのようにレベルを維持するか」についてシンポジウムが開催されるほどでした。
その時に最重要視されたのはやはり「クリッピング術の数」でした。

しかしその後すぐに新しい研修医制度が始まりました。
この新たな制度によって、ついこの間まで余っているはずだった脳神経外科医が「足りなくなってきた!」と盛んに取りざたされています。
本当に足りないのでしょうか?

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