脳卒中をやっつけろ!

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脳動脈瘤 その33 脳血管内治療:その3 血管内への管の進め方

2021年05月22日 | 動脈瘤
前回は、管を動脈に入れる方法を紹介しました。ではその後、どうやって血管内で管を進めていくのでしょうか?

ツルツルしたワイヤーを管の中に入れて、それをガイドにして進めていくのです。
まず足の付け根の動脈から大動脈の中に進みます(図a)。
そしてワイヤーをクルクルと回しながら慎重に先行させ、それに沿わせて管を進めます。
「動脈の中でワイヤーや管を動かすなんて痛そう!」と思われるかもしれません。しかし、実は管を入れても全く痛くないのです。
カテーテルやワイヤーは表面が親水性ポリマー加工されていますから、水に濡らすとヌルヌルとしています。
しかも動脈よりもずっと細いので、血管の中に管が浮いたような状態で進められるのです。
 
さて、大動脈は胸のあたりで弓のように曲がっています(赤矢印)。ここを大動脈弓部(きゅうぶ)と呼びます。
そして、この曲がった部分から脳に向かう血管が何本か分かれています(図b)。
そのうち、左右の頚動脈(けいどうみゃく)にカテーテルを誘導するとします。
ワイヤーを頚動脈に入れて、それに沿わせて管をさらに進めます。
血管内治療を行うためには太めの管を使いますが、その場合には太い管の中に細めのカテーテルとワイヤーを入れて、3段重ねにして使用します(図a)。
段差が少ない方が血管に引っかからず、壁を傷つけにくいからです。
この太めの管のことを親カテーテルと呼びますが、これを頚動脈に誘導できたら、治療の第一段階が完了です。
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脳動脈瘤 その32 脳血管内治療:その2 シースの挿入

2021年05月10日 | 動脈瘤
さて今回は、シースという管をどうやって動脈に入れるのか、紹介します。

私たちが脈をとる時に触れる手首の血管も動脈のひとつです。ちょっと触れてみて下さい。トクトクと脈打っていますよね?これは、心臓がぎゅっと縮んで全身に血液が送られる時に、圧力がかかっているからなのです。ですから、動脈に穴が空いたら大変です。すごい勢いで血が吹き出ます。
ではどうやったら、そんな圧力のかかった血管に管を入れられるのでしょうか?

まず動脈に挿入する管に特徴があります。針先が2重になったものが使われるのです。
これを動脈にゆっくりと慎重に刺して、先端がしっかり動脈の中に入ったら外の筒だけを残して、中の筒を抜きます。
そうすると血液がビュッと逆流してきます。その状態で細いワイヤーを慎重に入れます。
ワイヤーが十分奥まで入ったら、指で押さえながら外の筒を抜きます。そしてワイヤーに沿わせながらシースを入れます。
最後にワイヤーを抜けばOKです!

どうです、分かりましたでしょうか?この手順を丁寧に行うことで、安定してカテーテル検査ができるようになったのです。
このシースは足の付け根の動脈だけでなく、肘の内側の動脈や手首の動脈などにも入れることが出来ます。

ただし手順が理解できても、すぐに入れられるようになるわけではありません。何度も練習して、やっと一回で入れられるようになるのです。最近では練習するキットもあります。
若手の先生たちには、ぜひ頑張って欲しいと思います。

さて、次回はこのシースから入れたカテーテルを頚部まで進めていく方法を紹介します。楽しみにして下さいね!
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コロナワクチンの副反応:アナフィラキシーについて

2021年05月06日 | トピックス
コロナワクチンの副反応であるアナフィラキシーについて質問がありましたので、お答えいたします。

まず、アナフィラキシーとは、なんのことでしょうか?
アナフィラキシーとは「アレルギー反応が短い時間で全身に激しくあらわれること」です。
症状としてもっとも多いのは、じんましん、赤み、かゆみなどの「皮膚の症状」です。
次にくしゃみ、せき、息苦しさなどの「呼吸器の症状」。
そして、目のかゆみやむくみ、くちびるの腫れなどの「粘膜の症状」が多いとされています。
他にも、腹痛や嘔吐や、血圧低下などをきたすことがあります。
こういった症状が全身に急速にあらわれるのが、アナフィラキシーの特徴です。
数分~数時間で症状が現れることが多いとされていますが、注射などの場合には早く症状が出るとされています。

次にNHKのホームページの情報を引用します。
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厚生労働省によりますと、4月22日までに報告された接種後の症状のうち、国際的な評価指標でアナフィラキシーに該当したのは合わせて94件で、およそ2万6800回に1件の割合でした。これらの報告について、厚生労働省の専門家部会は「現時点でワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められない」として引き続き接種を進めていくことを了承しました。
(2021年4月30日)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/vaccine/progress/#mokuji6
-------------------------------

コロナワクチンでアナフィラキシーが起きる確率は1/26800、つまり0.0037%で、しかもほぼ全員が軽快していると記載されています。

厚生労働省のホームページに詳しく掲載されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_hukuhannou-utagai-houkoku.html

さて、これまでのコロナ感染者数を見てみましょう。
総感染者数は5月5日時点で61万7622人です。
日本の総人口は1億2557万人と報告されていますので(2021年1月20日 総務省統計局から)
これまでの感染率は約0.5%と推定されます。
死亡者数は1万547人なので、全感染者の1.7%前後です。
もちろん、これらの数値は検査を受けた人だけを登録しているので、もっと感染者数は多いかもしれません。

最近、米国の友人と話す機会があったのですが、「アメリカではコロナに勝った、という雰囲気になっている。ワクチン接種率が地域で30-40%を超えたあたりから感染者数が激減して、自分の病院では入り口の体温測定もなくなった」と言っていました。
日本も早くワクチンが普及して安全な社会になってほしいと思います。

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脳動脈瘤 その31 脳血管内治療:その1 どこから管を入れる?

2021年05月05日 | 動脈瘤
今回からは脳血管内手術、つまりカテーテルと呼ばれる管を使った「切らない手術」について説明していきます。
この治療、実際にはどのように行われるのでしょうか?

まず多くの場合、ふとももの付け根の「そけい」とよばれるところから管を入れるのが最初の処置になります。ここには大腿動脈という血管が走っており、そこに管を入れるのです(図)。
といってもいきなり頭部まで届くような長い管を入れるわけではありません。まずは10センチか20センチぐらいの短めの管を入れます。
これはなぜなのでしょうか?

実は、足の付け根のところには少し太めの短めの管を入れておいて、その中にいろいろな種類の管を出し入れできるようにしているのです。
私たちはこの短い管のことをシースと呼びます。シースとは鞘(さや)という意味です。このシースの入り口のところには特殊な膜が張ってあり(矢印)、ここにぐっと押し込むと管が入り、管を抜いた時にはうまく穴がふさがって血液が漏れないようになっているのです。
つまり、このシース(短い管)の中に治療用の管を入れ、もし形が合わなければ抜いて別の管に入れ替えられるのです。このシースを使わないと、管の入れ替えがとてもやりにくく、場合によっては別の血管から管を入れ直さないといけなくなってしまいます。ですからシースというのはとてもよく考えられた工夫なのです。

さて、このシースには様々な太さや長さがあります。これはどこから管を入れるのか、そしてどの程度の太さの管を使うのかということで選ばれます。製品によっていろいろな工夫が凝らしてあります。
さて、動脈に管を入れる、といいましたが、じつはこの技術はそんなに簡単なものではありません。管を入れるのにはコツがあるのです。
次回はそんなお話をしようと思います。
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