脳動脈瘤治療でフローダイバーターを留置された患者さんから、いつ内服を中止して良いかご質問をいただきましたので、お答えしたいと思います。
まず答えを言いますと、内頚動脈の近位部にフローダイバーターが留置され、動脈瘤が治っている方は、治療後1年で中止可能と考えています。
以下で詳しく説明いたします。
脳動脈瘤に対して血管内治療を行う場合には血液をサラサラにする薬を内服していただくことがほとんどです。
治療で血管内に異物を残すため、それに血栓(血のかたまり)が付着して、それが大きくなったり、剥がれて飛んでいくことによって脳血管が詰まり、脳梗塞を起こしうるためです。
血液をサラサラにする薬には大きく分けて、抗血小板薬と抗凝固薬の2種類があります。
血管内治療の際に内服するのは抗血小板薬です。
日本で使用可能な抗血小板薬は数多くありますが、代表的なものは以下の通りです。
1)アスピリン、2)クロピドグレル、3)シロスタゾール、4)プラスグレル(脳には適応外)
さて、これまでの研究の結果、抗血小板薬(特にクロピドグレル)は内服を開始してから十分な効き目が出るまでに7日から10日程度かかるとされています。
このため、治療前の内服は7日から14日前から開始します。
(期間を短くする場合には増量されます)
当科ではその上で、薬が効いているかどうかを採血で確認します。効いていない場合には、薬を変更・追加するなどして調整しています。
このような投与法によって治療中の脳梗塞などはほとんど経験しなくなりましたので、この方法が良いと実感していますし、海外でもこれに似た方法が推奨されています。
しかし、脳血管内治療後、抗血小板薬をいつ中止して良いのかについては、明確なデータがありません。
まずコイルだけで治療ができた場合には、治療後すぐにも内服の中止が可能です。
一方、ステントやフローダイバーターを留置した場合にはすぐに中止することはできません。脳梗塞を起こすリスクがあるからです。
私たちはこれまで数多くのステント併用コイル塞栓術(1,000例以上)、フローダイバーター留置術(150例以上)を行ってきましたが、基本的に治療から1年後に血管撮影を行うようにしています。その結果、内頚動脈の近位部にステントやフローダイバーターを留置していて、治療部に狭窄がなく、動脈瘤が治癒している場合には抗血小板薬を中止しています。
これまでこの方法で大きな脳梗塞を起こした方はいません。これはステント併用コイル塞栓術でも同様です。
ただし最近、フローダイバーターの種類が増え、内頚動脈だけでなくもっと細い血管にも留置できるようになりました。
ステントの場合にも、最近では細い血管に留置する機会が増えてきました。
そのような場合に、1年で中止して良いかどうかについては、まだ経験が少ないのでわかりません。
個々の患者さんの状況(留置された血管の太さや動脈瘤の大きさ、血栓化の程度など)によって内服期間を変化させないといけないかもしれません。
また、血管が細くなっていたり、動脈瘤が治癒していない場合は、1種類は継続することがほとんどです。
以上のように、まだわからない部分が多く、薬の投与法や中止時期については、施設によって格差が大きいのが実情です。
このため、今後、この点に関して大規模調査が必要と考えています。
以上、ご参考となれば幸いです。