脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

脳動脈瘤 その24 外科手術 1. クリッピング術 「複雑なクリッピング」

2020年12月25日 | 動脈瘤
それでは難易度の高い動脈瘤を剥離した後、クリップのかけかたについて説明します。
動脈瘤は基本的に根元を1本のクリップできっちりと閉じるのがいいのですが、それが危ないケースもあります。
図を見てください。
この動脈瘤は根元が動脈硬化で黄色くなっていましたので、その部分は意図的に残して、壁の薄い赤い部分をクリップしています。
根元までしっかり閉じるケースがほとんどなのですが、時にはこのようなクリップのかけかたをすることもあるのです。
この図ではクリップを3本も使用しています。1本で処置しにくい場合には複数のクリップを組み合わせることもあるのです。
このように動脈瘤の形や部位ごとにクリップの使用法が違います。
したがって、多くのクリッピング術を経験することで術者に多くの引き出しが出来て、治療が安全になっていきます。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コラム4 脳動脈瘤に対する血管内治療後、抗血小板療法はいつまで続けるのか?

2020年12月13日 | 動脈瘤
脳動脈瘤治療でフローダイバーターを留置された患者さんから、いつ内服を中止して良いかご質問をいただきましたので、お答えしたいと思います。
まず答えを言いますと、内頚動脈の近位部にフローダイバーターが留置され、動脈瘤が治っている方は、治療後1年で中止可能と考えています。
以下で詳しく説明いたします。

脳動脈瘤に対して血管内治療を行う場合には血液をサラサラにする薬を内服していただくことがほとんどです。
治療で血管内に異物を残すため、それに血栓(血のかたまり)が付着して、それが大きくなったり、剥がれて飛んでいくことによって脳血管が詰まり、脳梗塞を起こしうるためです。
血液をサラサラにする薬には大きく分けて、抗血小板薬と抗凝固薬の2種類があります。
血管内治療の際に内服するのは抗血小板薬です。
日本で使用可能な抗血小板薬は数多くありますが、代表的なものは以下の通りです。
1)アスピリン、2)クロピドグレル、3)シロスタゾール、4)プラスグレル(脳には適応外)

さて、これまでの研究の結果、抗血小板薬(特にクロピドグレル)は内服を開始してから十分な効き目が出るまでに7日から10日程度かかるとされています。
このため、治療前の内服は7日から14日前から開始します。
(期間を短くする場合には増量されます)
当科ではその上で、薬が効いているかどうかを採血で確認します。効いていない場合には、薬を変更・追加するなどして調整しています。
このような投与法によって治療中の脳梗塞などはほとんど経験しなくなりましたので、この方法が良いと実感していますし、海外でもこれに似た方法が推奨されています。

しかし、脳血管内治療後、抗血小板薬をいつ中止して良いのかについては、明確なデータがありません。
まずコイルだけで治療ができた場合には、治療後すぐにも内服の中止が可能です。
一方、ステントやフローダイバーターを留置した場合にはすぐに中止することはできません。脳梗塞を起こすリスクがあるからです。
私たちはこれまで数多くのステント併用コイル塞栓術(1,000例以上)、フローダイバーター留置術(150例以上)を行ってきましたが、基本的に治療から1年後に血管撮影を行うようにしています。その結果、内頚動脈の近位部にステントやフローダイバーターを留置していて、治療部に狭窄がなく、動脈瘤が治癒している場合には抗血小板薬を中止しています。
これまでこの方法で大きな脳梗塞を起こした方はいません。これはステント併用コイル塞栓術でも同様です。

ただし最近、フローダイバーターの種類が増え、内頚動脈だけでなくもっと細い血管にも留置できるようになりました。
ステントの場合にも、最近では細い血管に留置する機会が増えてきました。
そのような場合に、1年で中止して良いかどうかについては、まだ経験が少ないのでわかりません。
個々の患者さんの状況(留置された血管の太さや動脈瘤の大きさ、血栓化の程度など)によって内服期間を変化させないといけないかもしれません。
また、血管が細くなっていたり、動脈瘤が治癒していない場合は、1種類は継続することがほとんどです。

以上のように、まだわからない部分が多く、薬の投与法や中止時期については、施設によって格差が大きいのが実情です。
このため、今後、この点に関して大規模調査が必要と考えています。

以上、ご参考となれば幸いです。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脳動脈瘤 その23 外科手術 1. クリッピング術 「難易度の高いクリップの前に重要なことは?」

2020年12月08日 | 動脈瘤
さて、今回は少し難易度が高いクリッピングのお話です。
動脈瘤の術中破裂や周辺の血管や神経の損傷を避けるためには、クリップ前に、動脈瘤とその周囲をしっかり確認して、動脈瘤全体を周囲から完全にはがす(医学用語で剥離(はくり)といいます)ことが重要です。動脈瘤が周辺の組織から完全にはがれていれば、動脈瘤の裏側に存在する血管や神経を確認し、保護することができます。
では、どのように動脈瘤を剥離するのでしょうか?

以前は小さなヘラなどを差し込んだり、引っ張ったりする操作で剥離が行われていました。こういう方法を鈍的(どんてき)剥離といいます。このような操作をすると、動脈瘤や癒着している血管をひっぱったり、こすったりして傷つけてしまうことがあるのです。
このため、私はハサミで動脈瘤と癒着している組織の間を少しずつ切って行くようにしています(図)。この操作は、鋭的(えいてき)剥離、英語ではsharp dissectionと呼ばれています。自分が国立循環器病センターのレジデント(研修生)だった時に、当時、部長だった橋本信夫先生から学んだ方法です。初めてこの操作を見た時には「動脈瘤の壁の近くをハサミで切るなんて危ない!」と驚いたのですが、この方が術中破裂が少なく、周囲組織の損傷も少なかったのです。橋本先生だからできる天才的な技術だとも思ったのですが、自身がスイスに留学していた時にも、動物を使ったトレーニングでsharp dissection操作を行うよう指導されました。やはり世界のトップレベルの技術というのは同じ方向に向かうのでしょうか。実際にこの操作が安定してできるようになると、クリッピングに自身が持てるようになります。

このような背景から、私はほぼ全例で動脈瘤を完全にフリーの状態にしてからクリップをかけています。このため、術中破裂や脳梗塞などは最近経験がありません。
熟練した術者はまず例外なくこのような剥離を行なっています。それは、周辺組織と動脈瘤が癒着したままクリップして裏側で血管をつまんでしまったり、不十分なクリッピングや動脈瘤破裂などのリスクを避けるためです。術中の動脈瘤破裂などのトラブルはクリップをかける時に最も多いことが報告されています。ですので、その操作に移る前に、十分に剥離を行なってからクリップ操作に移ります。この剥離操作を怖がる若手術者は少なくありませんが、動脈瘤の良い術者になるためには、トレーニングに励んで、癒着した組織の剥離がうまくできるようになる必要があります。

もちろん、動脈瘤を周囲構造から剥がすのがどうしても難しいこともあります。癒着が高度な場合、癒着した血管などを損傷してしまったり、動脈瘤が破裂してしまう可能性があるからです。このため、どこまではがすかという見極めも重要になります。

さて、クリップをかける時、そしてクリッピング直後にも重要なステップがあります。それについては次回紹介します。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする