脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

コロナ感染と脳動脈瘤

2020年07月31日 | 動脈瘤
未破裂脳動脈瘤をお持ちの患者さんから、下記のようなお問い合わせをいただきました。
「5ミリの未破裂脳動脈瘤もちです。経過観察中です。最近コロナの後遺症の話がニュースで報道されていますがその中にくも膜下出血を起こすというものがありました。
未破裂もちはコロナにかかると破裂する可能性が高いのでしょうか?もちろん気をつけて生活はしていますが特に気をつけないといけないのでしょうか?」

調べた範囲でお答えしたいと思います。
まず、「コロナ感染が脳動脈瘤破裂を増やす」という報道はどんなものだったのでしょうか。
ご存知の方がおられればぜひ教えていただければと思います。
私はGoogleなどでうまく見つけられませんでした。

私が想定するのは、
1)コロナ感染で通院をやめてしまい、血圧の薬などを自己中止してしまった
2)自粛中にタバコを再開してしまった
3)お酒が増えてしまった
4)脳動脈瘤の定期検査を辞めてしまった
5)自粛で太ってしまい、それにともなって血圧が上がった
といったようなことがあれば、動脈瘤の破裂率が上がると考えます。
なぜなら脳動脈瘤の破裂に関連する因子は、1)高血圧、2)喫煙、3)大量の飲酒、とされているからです。
このため、不確かな情報に振り回されず、これまで通りの危険因子管理をきっちりと継続すること。これが私からのアドバイスです。
予防の詳細については、拙書「脳卒中をやっつけろ!」(三輪書店)をお読みください。

さて、コロナとくも膜下出血、あるいは、コロナの後遺症とくも膜下出血として医学文献検索(Pubmed)をしたところ、むしろフランスからは「くも膜下出血患者さんが激減している」と報告されていました。(J Neurosurg Sci. 2020 Apr 29. doi: 10.23736/S0390-5616.20.04963-2. )
ではコロナウイルス蔓延で、くも膜下出血は減っているのでしょうか?

実際はそうではないと考えられています。
この論文では、くも膜下出血患者さんの搬入が減っている原因として、「コロナ感染を恐れて患者さんが病院を受診しない」ことが想定されています。つまり、病院でのコロナ感染を恐れるあまり、本来早期に受診して治療を受ければ救われるはずの方が、自宅で命を落としているのではないか、と想定されているのです。
マスコミでは毎日のようにコロナ感染の増加や、院内感染が報道されています。注意喚起のためなのでしょうが、全国の病院数から考えれば院内感染が起きたのはごく一部で、ほとんどの病院では院内感染を起こさずうまく診療ができていることになります。
しかも一旦院内感染を起こした病院は、再発予防が徹底されますから、むしろ安全になっていると考えられます。

以上を考えれば、脳卒中の症状が出ているのに、極めて低い感染リスクを恐れて病院にかからず、手遅れになるというのでは本末転倒だと思います。

私は毎日病院に勤務していますし、他の病院にも訪問しますが、救急患者さんの診療以外で不安を感じることはまずありません。外来でも皆さん、熱を測り問診に答えていただいた上で、マスク、手指の消毒をしてもらっていますので、リスクは極めて低いと考えています。
私にとっては、外来診察よりも、混んだお店や公共交通機関の方が不安です。(ですから、できるだけお店には行かず、車で通勤しています。)
これは、どこの病院も院内感染が起きないよう徹底的なチェックと隔離が行われていることを知っているからです。私たち病院関係者は、『感染症のプロフェッショナル』とともに、医療者と患者さんを守るために頑張っています。
ですから、脳卒中を疑う症状(手足や顔の麻痺、言語障害、激しい頭痛など)がある場合には、ためらわずに救急車を呼びましょう。
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テレビ放映のお知らせ

2020年07月27日 | 報道・出版関係
みなさん、こんにちは!
今週日曜日の夜に、私たちの脳動脈瘤治療に関する取材内容が放映されます。
極めて大きな動脈瘤で、治療が非常に難しかった患者さんのお話です。
お時間のある方はぜひご覧ください。

8月2日(日) 20:00から21:54
フジテレビ系列
「ラストドクター」
https://www.fujitv.co.jp/b_hp/lastdoctor/index.html

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脳動脈瘤 コラム 「血管内治療でも血管が詰まることがあるのか?」(前編つづき)

2020年07月21日 | 動脈瘤
では、ステントを留置した血管自体が詰まるのを回避するにはどうしたらいいのでしょうか?
もちろん、こういった場合は血管内治療が不利なわけですから、開頭手術を選択する方が安全です。
しかし、なんらかの事情で血管内治療を選ぶ場合には、その安全性を高める工夫が必要です。

1)血液サラサラの薬(抗血小板療法)を強化する
 脳血管内治療を行う場合には、血液をサラサラにする薬を2種類内服することが多いです。しかし私たちアジア人の20−30%はクロピドグレル(抗血小板薬)という薬の効きが悪いため、治療前にその効き具合を調べて、効いていない場合には薬を追加したり変更する必要があります。そうしてしっかり薬が効いたところで血管内治療を行えば、血栓ができるリスクが減りますので治療が安全になります。また前回紹介したような、血管が細い、ステントが浮いている、など血栓の出来やすい状態では、治療後も2種類の内服を継続する期間を長くしたりします。ただしその分、出血も起きやすくなりますので、このあたりは患者さんによって匙加減が必要です。

2)血栓ができやすい状態を回避する
 血管自体が極めて細い場合には、外科手術を選ぶのが安全で、ステントを使用する場合には血液サラサラの薬を強化するしかありません。
 一方、ステントを曲がりの強い血管に留置する場合には、密着の良いタイプを用いることでステントが浮くのを防ぐことができます(図左)。血管の曲がりの程度や動脈瘤の位置などで条件が変わってきますが、基本的にはオープンセルステント(open cell stent)というタイプの方が血管の壁への密着が良くなります(図中央)。
 また、複数組み合わせて治療する場合にも、このタイプを用いること、そしてYの字ではなく、Tの字に留置するなどの工夫で血栓ができる可能性を減らせます(図右)。

3)最新の分岐部デバイスを用いる
 上記以外に、新しい機器で血管がつまらないような工夫ができるようになってきました。
 これは、後編の内容とも関係しますので、そちらで説明しますね!
 
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脳動脈瘤 コラム 「血管内治療でも血管が詰まることがあるのか?」(前編)

2020年07月16日 | 動脈瘤
「ステント併用コイル塞栓術でも詰まってしまう血管があるのか?」というご質問をいただきました。
答えは、「稀ですが、あります」ということになります。
そう言われると不安になってしまうと思いますので、ステントを併用した場合に、なぜ、どんな場所の血管が詰まるのかについて、もう少し詳しく説明します。

2つのパターンに分けて考える必要があります。
1)ステントを留置した血管自体が詰まる
2)動脈瘤そのものから分かれている枝が詰まる

今回はまず1)の場合について説明します。

1)ステントを留置した血管自体が詰まる
 動脈瘤をコイルで詰めるときに、コイルが動脈瘤からはみ出すと、そのコイルで血液の流れが淀んで血管が詰まってしまうことがあります。そうならないようにステントでコイルを動脈瘤の中だけに収まるようにしているのです。
 脳動脈瘤治療に使用されるステントは自己拡張型(自然に広がるタイプ)ですし、とても薄くできていますので、留置された後は血管にピッタリとくっつきます。つまり通常の留置法では、それ自体が血流をさえぎる効果はごく限定的です。
 しかしそれでも異物ですので、血管内に留置されるとステントの表面には血栓(血のかたまり)ができることが知られています。この程度が強い場合には、血管が詰まってしまったり、形成された血栓が剥がれて流れていき、先の方の血管が詰まる、ということが起こり得ます。このため、治療前から血液をサラサラにする薬(抗血小板薬)を内服してもらい、血栓ができるのを予防します。抗血小板薬を2種類内服した状態で、しかもどちらもしっかりと効いていれば、ステントを留置した血管自体が詰まる可能性は極めて低くなります。

 ただし2つ例外があります。それは血管自体が極めて細い場合と、ステントが血管に密着しない場合です(上図)。
 通常の留置法で抗血小板薬が効いている場合でも、血管自体が極めて細い場合には、小さな血栓ができることで詰まってしまうリスクがあります(図中央)。
 またステントを曲がりの強い血管に留置したり、複数組み合わせて治療する場合には、血管の中にステントが浮いている部分ができやすいので、そこに血栓ができる可能性があります(図右)。
 したがって、ステントが浮くような状況はできるだけ避ける必要があるのです。
 ではどう解決するのか?
 次回はその工夫の詳細について紹介します。 
 
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脳動脈瘤 その7 脳動脈瘤の種類(成因による分類) 解離性動脈瘤 つづき2

2020年07月01日 | 動脈瘤
みなさん、こんにちは!
今回は脳動脈解離のうち、まず椎骨動脈に生じた解離の治療法について紹介します。

椎骨動脈解離によって形成された動脈瘤(解離性動脈瘤)が破裂した場合には、通常の動脈瘤よりも急性期に再破裂する確率が高いとされています。このため、迅速な治療が必要です。
一方、解離を来たしてから時間が経過すると徐々に出血率が低下し、2ヶ月を超えると再出血は極めて低率となります。従って、それ以降は治療する必要性が減少しますが、経過中に動脈瘤が大きくなったり、解離が進行する場合には再破裂の危険性が高いと想定されるため、治療が考慮されます。

さて、解離性動脈瘤は通常の動脈瘤と構造が違っているので、治療法も異なります。
通常の嚢状(のうじょう)動脈瘤のように、血管から外にふくらむ丸い形になることはまれで、多くは全体がふくらむ形(紡錘状:ぼうすいじょう)になります(上図)。その壁の一部が血管から突き出たような形になることもありますが、この小さなふくらみの部分は非常に薄い壁でできているため、そこをクリップしたり、コイルでつめるのは困難なことがほとんどです。
ではどのように治療するのでしょうか?

答えは、血管自体を止めてしまうのです。(上左図)
「脳の血管を止めるなんて、そんなことして大丈夫か?」という声が聞こえてきそうです。
図のように、椎骨動脈は左右一本ずつあります。このため、一本を止めたとしても、反対側の椎骨動脈からその先の脳底動脈には十分な血液が流れるので、大丈夫なのです。以前は外科手術で血管を止めていましたが、最近では頭を切らずに、管(カテーテル)を使ってコイルを詰めることで血管を止めることが可能です。

しかし、もし解離した部分から重要な枝(小脳への動脈など)が出ている場合には、椎骨動脈瘤をつめると、枝もつまってしまいます。そうなると、小脳梗塞や脳幹梗塞が起きて、ふらつき(小脳失調など)やふるえ、重度の場合には麻痺などを生じることになります。このため、重要な枝が出ている場合には、その枝に皮膚の血管をつなぐバイパスを行なって、脳への血流を保つようにします。ただし、細い枝にはバイパスはできません。細い枝であっても、つまることで小脳や脳幹の梗塞を生じて、半身のしびれやまひなどを生じることもあります。やはり脳の血管を止める以上、一定の確率で脳梗塞を生じることは避けがたく、実際、日本の調査でも10%か、それ以上の確率で治療後の後遺症が生じることが知られています。
また、脳底動脈に解離が及んでいたり、反対側の椎骨動脈が詰まっている場合には、血管を止める方法を行うことはできません。脳底動脈からは脳幹にたくさんの細い重要な枝が出ており、これらが詰まると、重度の後遺症を生じるためです。

そこで、最近ではステントを併用して、血管の流れを残して治療する試みがなされています(上右図)。血管解離は血管の壁が剥がれる病気ですから、ステントで内側から補強するのは本来、理想的な治療と考えられます。しかし、出血例に対しては日本ではステントを使った治療は保険で認められていません。欧米では目の細かいステント(フローダイバーター)を留置することで良好な治療成績が得られたとする報告もありますが、これも我が国では保険適応外となります。

以上から、椎骨動脈解離に対しては基本的には血管を止める治療をまず考慮して、そのリスクが高い場合には血管閉塞とバイパスとの併用やステント併用コイル塞栓術が行われています。
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