脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

クリップの劣化とMRIについて

2008年06月29日 | 閑話休題
クリップの劣化について質問がありました。
これまで全世界で多くのクリッピング術が行われてきました。
しかしクリップの劣化による再出血や悪化は聞いたことがありません
ですからクリップの劣化については心配いらないと思います。


次にMRIの件ですが、これはどのような種類のクリップを用いたのかによって違ってきます。
最近ではチタン製のクリップが多く使われており、これはMRIに適合しています。
またCT検査でも画像の乱れ(アーチファクト)が少なく、CTアンギオの撮影も可能な程です。
しかし以前に使用されていた脳動脈瘤クリップには強磁性体のものもあるため注意が必要です。
手術で使用された器具について術者に直接確認し、MRIが出来るかどうかを確認する必要があります。
最近では3テスラという高度な地場を使用するMRIも使用されるようになってきています。
私の施設でもこの機種を使っていますが、確かに画像がきれいですし、脳の働きを調べることも可能です。
しかしこれまで以上にチタン製以外のクリップを使用している患者さんには検査による危険性を説明するようになりました。

他の施設で治療を受けた患者さんの場合には安全のためMRIを行わない病院もあります。
この際、病院側の安全確保のため「MRIはできません」と説明されることもあります。
しかしよほど昔の強磁性体のクリップでない限り、実際には検査自体は可能です。ただしMRIの画像はある程度乱れますが。

一度この機会に自分の手術に使用されたクリップを直接その病院に確認されることをお勧めします。
年数がたつ程、確認は難しくなりますよ。
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くも膜下出血ー診断(3) 腰椎穿刺

2008年06月28日 | くも膜下出血
 久しぶりに本題に戻りますね(^^;)

 腰椎穿刺は脳と脊髄のまわりにある水(脳脊髄液)を注射針で吸引して、検査室で調べる方法です。
 脊髄に針が刺さってしまうのではないか?と心配ですが、針を第3腰椎と第4腰椎の間に差し込めば、まず脊髄を傷つけることはありません。その高さには脊髄はなく、そこから下に伸びる細い神経しかないからです。その神経のことを医学用語で馬尾(ばび)といいます。といっても馬のしっぽではありません。解剖学的に脊髄から出る神経があたかも馬のしっぽのように見えるのでそう名付けられているのです。
 また穿刺中は、頭蓋内圧(頭の中の圧力)を測定できます。頭の中の水と脊髄の水はつながっているからです。
 脳脊髄液の検査によって、他にも色々なことが分かりますが、くも膜下出血の場合には脳脊髄液が赤血球のために赤色になります。正常では無色透明です。
 しかし時間が経ったらどうでしょうか?CTやMRIの所で説明したように、出血からしばらく時間が経つとこれらの画像診断で出血の有無が判定出来ない場合があります。
 でも大丈夫です。この腰椎穿刺を行えば、髄液が黄色になるため(上図)、まず判定できるのです。したがってこの検査はくも膜下出血があるかないかの最終判断に使われる重要な検査と言えます。
 たまに穿刺がうまく行かず穿刺中に出血させてしまうことがあります。そうなるとくも膜下出血の有無の判定が出来なくなってしまいます。検査医は出血させないように慎重に行わなければなりません。

 また検査に伴うリスクもわずかながらあります。それは髄液に細菌が入ってしまうことです。脳脊髄液中には細菌をやっつける白血球などの細胞がないため、細菌の侵入に弱いのです。一旦細菌が入ってしまうと髄膜炎(ずいまくえん)と呼ばれる状態になります。最近は抗生物質も良くなり、髄膜炎になってもまずなおることが多いのですが、時間がかかるし発熱で苦しみます。検査医がきちんとした防御法を行ってきれいな操作で検査を行えばまずこのようなことはありません。

 以上、くも膜下出血の診断について説明しました。
 次回からは治療編ですよ!
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秋田脳研

2008年06月26日 | 病院
先週、秋田県立脳血管研究センター、通称秋田脳研に出張治療に行ってきました。
現在、当大学出身の玉川紀之先生が国内留学しており、応援を頼まれたのです。
症例は難しい硬膜動静脈瘻が2例でしたが、何とかうまく治療することが出来ました。
この秋田脳研は脳卒中治療の最先端を行く日本でもトップクラスの施設です。
そのような施設に招かれて大変光栄ですが、やはり治療に際しては非常に緊張しました。
結果が良かったのでほっとしています。

所長の安井信之先生、科長の石川達哉先生には大変良くして頂きました。
ありがとうございました。
温かくて、しかもレベルが高い施設は珍しいのではないでしょうか?
玉川先生の今後の活躍を期待したいです。
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涙のムンテラ

2008年06月22日 | 閑話休題
先日、私の患者Oさんについて内科と麻酔科から電話で問い合わせがありました。
Oさんは頚動脈が細かったので、昨年、私が内膜はくり術(頚部で血管を切り開き、動脈硬化で分厚くなった内膜を取り去る手術)を行い、成功した方です。
ただ、他の血管も何カ所か詰まったり細くなったりしていたため、その後も入退院を繰り返していました。
ところが今度はがんが見つかったというのです。
内科と外科、さらに麻酔科のドクター達は、手術に際して脳が最も危険な状態と判断したとのことで、「治療に関わるリスクを本人と家族に説明してほしい」ということでした。
Oさんは執刀した私に絶大な信頼を寄せてくれており、直接の説明を希望されていました。
私は「分かりました。手術中に脳の血管が詰まって命に関わるかもしれないと説明します」と言って、電話を切りました。

そして、面談をはじめました。
ふと見ると、なんと本人も奥さんも目が真っ赤です。
普段あれほど気丈なOさんがです。
「この人たちはこれから自分が説明しようとしていることなど全部分かっている」と私は直感しました。
もちろん通り一遍の説明はしました。
しかしその後の説明は麻酔科の先生に約束した内容とはずいぶん変わっていました。

「手術してもらえるということは末期がんではない。チャンスがあるんです。だから頑張りましょう。」
「私の見立てではおそらく血管はつまらない。血栓が出来にくくする薬の中止期間はなるべく短くしてもらう。ぜひ乗り切ってまた私の外来に来てください。」
「もしも何か頭におこったら出来ることは何でもします。夜間でも駆けつけます。安心して治療にのぞんでください。そのかわり必ず元気になるんですよ、約束です。」
といって、握手をしました。
「乗り切ったらまた握手をしましょう。」
私も目が潤んでしまいました。

このような状況は比較的まれです。
この患者さんとご家族はこれまで脳血管と心臓の血管に関して何度も厳しい状態に立たれてきたため、幾度となく命の危険について説明を受けてこられました。
そのため今回説明せずともすべてを悟ることが出来たのです。
このような状況でOさんに、「あなたはこの手術で死ぬかもしれない。」と追い討ちをかけるような説明は私にはできませんでした。逆に、「大丈夫です、頑張りましょう。」と応援をしてしまいました。

人の人生は分からない。一寸先は闇といいます。
この仕事をしていると本当にそう思うことが多いのです。
でもできるものなら乗り切ってほしい。
笑顔でまたOさんと握手をしたい。
心からそう願っています。
頑張れ!Oさん!
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コメントに対して

2008年06月16日 | 閑話休題
ドイツ語がかけないドクターもいますよ。
私もそうです。
現在ではそうとう年配のドクターしかかけないと思います。
でもそれでいいのです。

MRIは一般にCTより鮮明な画像が得られます。
また造影剤を使用せずに血管がわかります。

「でもいきなりMRIではなくまずはCTからの撮影ということは何か理由があるのですか?」
まずCTで出血の有無を短時間で確認するのが一般的です。
第1の理由:MRIは撮影に時間がかかります。それと15分程は頭を動かさずにじっとしていないとMRIは取れません。
一方、今のCTは良くなったので、1分安静にできれば取れます。頭を押さえつけながらでも取れます。
これらは救急では大変重要なポイントなのです。
第2の理由:MRIではその時期により出血がかえって見にくいことがあります。
第3の理由:どこの病院でもMRIは予約で一般なので、頭痛だけの患者さんに気軽には取れません。

ですからまずCT。その後MRIとなるのです。

「フレア画像やティーツースター 画像って何ですか?」
MRIはCTと違い、磁場や信号を変化させることで色々な画像が撮影できます。
例えば良く行われるものに
T1強調画像、T2強調画像、FLAIR(フレア)画像、拡散強調画像があります。
このうち、FLAIR(フレア)画像はT2強調画像の水の部分を黒く見えるようにした画像です。
といっても分かりにくいですね?
あえて言えば、小さな脳梗塞などが分かりやすい画像です。
最近ではT1, T2, FLAIRの3つがスタンダードなんですよ。
急性期脳梗塞が疑われた場合には、これに拡散強調画像が追加されます。

ちょっと難しいですね!
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くも膜下出血ー診断(2) MRI

2008年06月14日 | くも膜下出血
CTで診断がつかないことが8%あるんでしたね。
その場合にはどうするのでしょうか。
答えは
1)MRIをとる
2)腰椎穿刺をする。

最近ではまず1)を行うことが多いです。寝ているだけで診断が出来ます。
2)は確実性が高い方法です。
しかし脳神経外科医、神経内科医であればなれていますが、一般内科医や研修医ではなかなか出来るものではありません。
しかもこの検査は腰に針をさして行うため痛みを伴います。また脊髄液を抜く操作で感染症(髄膜炎)などの可能性がゼロとは言えません。
以上のような理由から最近はまずMRIを取ることが多くなってきました。

MRIでは上の図のようにわずかな出血を捉えることが出来ます。
撮影方法はFLAIR(フレア)画像や、T2*(ティーツースター)画像です。
上の写真はFLAIR(フレア)画像です。出血が白く見えています。

またMRIの利点は血管の情報が得られることです。
次回示しますね。

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カルテはドイツ語?

2008年06月13日 | 閑話休題
戦前はドイツ医学を基礎としていたため、医学用語はドイツ語だったそうです。
みなさんもカルテ(診療録)とかクランケ(患者)などは聞いたことがありますよね。
先日紹介したムンテラやザーみたいに和製の言葉もありますが、現在でもドイツ語を使うことによって医師のみでのコミュニケーションを取ることがあります。
例えば食事をとることを「エッセンに行きます」とか、「ネーベン(外勤)に行く」、一年目の医者を「ノイヘレン」と呼ぶ、、、
患者さんの前で「食事に行きます」とか、「アルバイト(外勤)に行きます」とか、「一年目の医者」とかが言いにくいからかもしれません。やっぱり医療の現場は何となく隠蔽体質かな??。

一方で「癌」のことを「クレブス」といって患者さん自身に分からないようにしたり、胃ガンのことは「MK:マーゲンクレブスの略」、肺がんを「LK」と略語にすることで隠語として使用したりします。

告知していない患者さんに知られない工夫の一つだったのだと思いますが、最近はこういった悪性の病気でも患者さん自身に告知されていることが多くなっていて、ちょっとびっくりします。日本も変わりましたね。

さてドイツ語のカルテですが、戦前はドイツ医学が最も優れていたことをご存知ですか?
たとえばあの有名な「解体新書」の原本の「ターヘル・アナトミア」はオランダの書物ですが、実はドイツのクルムスの著書をオランダ語に訳したものなのだそうです。
戦後、アメリカ医学が世界をリードするようになってからカルテにも英語が増えはじめたそうです。
ですので年配のドクターの中には今でもドイツ語をカルテに記載される方がおられます。

さらに最近では「誰が見ても分かるカルテ」が最も良いとされています。
患者さんの状態を把握するために、医師だけでなく、看護師、技師、患者さん自身が読んで分かるようなカルテが一番いいのです。急変があってもだれでもすぐに読めるカルテ。そのためには日本語が一番です。
私自身は普段から英語や略語を極力使わずにカルテを書いています。
「unruptured MCA ANでwide neckのためclipping betterとptにIC」
より
「未破裂中大脳動脈瘤でネックが広いため、クリッピングの方が良いことを本人に説明し同意を得た」
の方がみんなに分かりやすいですね!

それと以前は日本語であっても字が読めないことがありましたが、最近は電子カルテの採用でこれは解決されてきましたね!!
次回そのエピソードを紹介しますね。

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ザー?

2008年06月10日 | 閑話休題
日本では病院独自の隠語のようなものがあります。
たとえば患者さんや家族への説明のことをムンテラをいいます。
これは
Mund = 口 (ドイツ語)
Therapy = 治療 (英語)
で口で治療する、つまり病状を説明する、といった意味に使われます。

くも膜下出血はどうでしょうか?
これは長年、「ザー」といわれてきました。
なぜ「ザー」なのでしょうか?

くも膜下出血のことを英語で
Subarachnoid hemorrhage
といいます。
Sub (下) arachoid(くも膜) hemorrhage(出血)
なのですが、
略してSAH
エスエーエッチと発音するのが正しいのですが、日本ではなぜかこれをドイツ語読みして「ザー」といいます。

救急室で「今からザーが来ます」といっていたら、それは雨が降るとかいうことではなくて、「くも膜下出血の患者さんが来る」という意味なのです。

     


でもこれは正しくないので、研修医の先生や学生さんには使わないようにと教えています。
地域限定の言葉もあります。
また紹介しますね。
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くも膜下出血ー診断(1) CT その3 答え

2008年06月08日 | くも膜下出血
分かりましたか?
難しいですよね。
答えは以上の通りです。
1)赤矢印のところについて
脳の周りのすきま(しわ)はCTで黒くうつります(右の図)。
出血はCTで白く見えます。
しかし脳の周りのすきまには髄液という水があるので、それに血が混じると血の濃さによって徐々に黒から白に色が変わっていきます。ですので出血がごく少ないと黒いまま、もう少し出ると灰色になってきて、ちょうど脳と同じ色になるのです。
そうすると今回問題に出したような非常に判断しにくいCTになるのです。
2)側脳室の拡大
側脳室の下角というのは通常は狭くてCTではみえません。
これが見えるのは水頭症(脳に水がたまった状態)を意味します。
くも膜下に血がたまると、髄液(脳の周りの水)がよどんで脳室の水が増えてCTで見えるようになるのです。

分かりましたか?

しかし実際には医師でもこのCTを診断できるのはわずかだと思います。
このCTを院内の医師に見せたところ、脳外科の専門医以外にくも膜下出血であることを診断できた人はいなかったのです。
神経内科医、放射線科医でもよほど慣れていないと見逃します。
脳外科でも専門医以外は診断できなかったのです。
これは正常のCTをどれだけ見慣れているか、軽症のくも膜下出血のCTの特徴(今回の答え)を知っているかどうかにかかっています。

もし分かった人は間違いなく脳外科の専門医レベルということ!すごいですよ。自信を持ってください。
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くも膜下出血ー診断(1) CT その3

2008年06月04日 | くも膜下出血
最高に難しい画像です。
脳神経外科専門医レベルです。

白い部分はありますか?
灰色は?
それ以外に何か所見がありますか?

でもこれでも診断しないといけないのです。
さあ、どうですか?

ヒント)脳室に注意。
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