脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

脳梗塞の診断 early CT signについて

2008年12月29日 | 脳梗塞
さて前回お話しした超急性期脳梗塞のCT所見のお話です。
これまで脳梗塞の急性期にはMRIが良いとされてきたことは前回お話しした通りです。
しかし、「early CT sign(アーリーCTサイン)」なる概念が提唱され、現在では「CTさえあればある程度急性期脳梗塞が診断できる」ことが常識となっています。
さてこの「early CT sign」なるものはどんなものでしょうか?

上の3つのCTの矢印で示したところがそれぞれearly CT signとされているものです。
矢印の部分は反対側の脳に比べて、若干黒く見えるのがお分かりでしょうか?
このわずかな所見を見逃さなければ、超急性期脳梗塞の診断が可能というわけです。
しかし上の図でお分かりのように、「誰でも簡単に診断できる」という所見ではありません。
どうですか?分かりますか?
私自身はこのサインで血栓溶解療法の適応を決めることに、初期には不安を感じていました。
ある程度経験を重ねると自信がつきましたが。

CTで不安に感じるもう一つの理由は、MRIの拡散強調画像なら、まさに「だれでも簡単に診断可能」だからです。
ただしMRIはどこの病院でも24時間稼働しているわけではありません。
特にこの拡散強調画像が撮れないMRIも多く存在します。
しかしCTならまずどこでもとれます。
ですから「まずはCTで診断しましょう」というのが現在の流れです。CTなら出血を見逃すこともありませんし。
しかし一方で、MRIは脳梗塞だけでなく脳の血管も診断可能です。
次回はMRIを紹介しますね。


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脳梗塞の診断 頭部CT

2008年12月22日 | 脳梗塞
久しぶりに本題に戻りました。
脳梗塞の続きです。
しばらくぶりで忘れちゃいましたね (^ ^;)

さて、唐突ですが、まずCTってなんでしょう?
意外と難しいですよ。
computed tomographyの略です。
コンピューターによる断層像ということです。
つまり脳を輪切りにして調べる方法です。
これが開発される以前は、脳の診断は極めて不確実で、出血も梗塞もなかなか分からなかったようです。
しかしこの方法が開発され、頭の中をごく短時間で確認できるようになったのです。
私自身は最近、このCTを「脳のレントゲン」と考えています。
外来でも何かあればすぐにCTを撮ってしまいます。
それで助かったことが、何度も何度もあります。
また紹介します。

さて、ここでクイズです。
CTでよくわかるのは出血と梗塞のどちらでしょう?

答えは、出血です。
なぜなら出血はCTで白く写ります。だからだれでもまず見逃すことはありません。
一方、梗塞は黒く写ります。まず灰色の脳の中で見にくい上に、発症後すぐには写りません。
通常「次の日になると見える」と言われていました。
だから脳梗塞急性期にCTをとるのは、出血を否定するだけだと...

しかし世の中偉い人がいるもので、「脳梗塞の早い段階にCTでも異常が見える」と言われはじめました。
初期虚血変化(early CT sign)というものです。
脳の中の皮質と髄質の境目(皮髄境界)が見えなくなったり、脳のしわ(脳溝)が見えなくなるというのです。
ただし!とても見にくい、わずかな所見です。
典型的パターンを覚えて、目を凝らして、、、やっと見えます。
でもCTさえあれば分かる。
外国ではCTしかない病院が多い。
日本はMRIがありふれているけれど、実は夜間や休日には撮れない施設も多い、救急施設でも(あ、言ってしまった...)。
だから大事なんです。このサインは。

次回、見てみましょうねー!
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篠田さん、ありがとう!

2008年12月17日 | 人物紹介
私は大学病院以外の病院でも血管内治療を行っています。
くも膜下出血で動かせない患者さん、種々の事情で大学病院まで移動しにくい患者さんなどは、搬入された施設で治療を希望されます。
その場合には、私はできるだけその施設まで出かけていって治療を行うようにしています。
しかも、なるべく早く、手遅れにならないように。

ですが、一般の病院に血管内治療に必要な器具が全てそろっているわけではありません。
だから持ち込むことになります。
10年も前は、自分で器材を運んでいましたが、現在は種類も多くとても管理できるものではありません。
それをずっと支えてくれた人が、井上精機の篠田さんです。

電話一本でどこにでも器材を運んでもらえます。
夜間でも、休日でも、本当に頭が下がります。
しかもミスがない。本当にミスがない。
「○○ある?」と聞くと、いつも「あります」という声が返ってくる。
すごく仕事のできる人です。
そのおかげでずいぶんとトラブルを回避できました。
篠田さんが命を救った!と思った瞬間が多くありました。

実は私の中学の後輩だった!なんていう偶然もあり、本当に親しくしてもらいました。
行き帰りの車の中では話相手にもなってもらっています。

その篠田さんですが、今月まででこの業務を終えて、大学病院内の勤務に交代されます。
残念だけど仕方がないですね。
これまで10年間、ありがとうございました。
篠田さんのおかげで多くの命が救われました。
私は決して忘れません。
本当にありがとう、そしてご苦労様でした!


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滝 和郎先生

2008年12月17日 | 学会/研究会
先週の金曜日に三重県の津市に行ってきました。
三重大学脳神経外科の滝 和郎教授が講演に招いてくださったのです。
滝教授は日本の脳血管内治療の創始者の一人で、日本脳神経血管内治療学会の理事長をなさっており、私が日頃から尊敬する先生です。
まだ治療器具のない頃に、すべて自作で(!!)治療を開始されたのです。
その独創性とチャレンジ精神は、自分にはマネのできないものです。
「現状の治療に満足せず、新たな方法にトライする」。
言葉にするのは簡単ですが、実際にはご苦労が多かったものと想像します。
しかし滝先生のご努力で現在の私たちの治療があるわけです。
すごいですね!

でも滝先生は非常に明るく優しい先生です。
お人柄も最高!です。
やっぱりトップに立つ方は違いますね。

向かって私の右側は松島准教授です。
日本脳神経血管内治療学会の専門医制度は松島先生のご努力でなりたっています。
広く日本全体のために仕事をされているのです。
すばらしいですね!

三重大学はこの領域で指導的立場にあるところなのです。
だから緊張しました!
でも本当に光栄でした。



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難しい動脈瘤3 メッシュカバードステント

2008年12月15日 | 閑話休題
お待たせしました。前回の続きです。
内皮がはるようにするには?そう、カバーに穴をあけることが必要です。
以前お話ししましたが、私が国立循環器病センターにいた頃、研究部門におられた松田武久先生が「ステントのカバーに細かい穴をあけると内皮がはる」と教えてくださいました。
その研究は今でも続けられているそうです。
しかしステントのカバーの材料自体の安全性が問われます。
日本は認可が厳しい。
だから私は「細かい目のステントを作ればいい」と考えていました。
しかし世界的にも同じ考えの人たちがいて、実際に細かい目のステントを作成して脳の治療に使っています。
PipelineとかSilkというステントです。

自分たちもそういったものを目指していましたが、先を越されていました。
ただし、自分たちのこれまでの実験で分かったことは、「かなり目が細かくないと動脈瘤はすぐには血栓化しない」ということです。
pipelineやsilkは即座に動脈瘤を血栓化することはできません。それを目指せば道はあります。
そこで通常のステントに、非常に目の細かくて薄い金属のメッシュをかぶせました。
動脈瘤のネックに留置すると、動脈瘤は即座に血栓化して再開通しませんでした。
これが「超微細メッシュカバードステント」です。

このように説明すると非常に簡単ですが、ここに到達するまでには、ずいぶんと失敗を繰り返しました。
カネカの深谷さんと橋本さんが根気よく改良を重ねてくれたおかげで、動物ではうまくいくようになっています。
あとは足りない部分を追加してまずは医学雑誌に報告する予定です。

現状の治療で最善の結果が得られるよう努力しつつも、さらに先を見据えて器具の開発をする。
これが自分の目標です。

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難しい動脈瘤3 カバードステント

2008年12月08日 | 動脈瘤
前回の難しい動脈瘤の続きです。
ステント+コイルは今後多く行われる治療ですが、大型のものではこの方法を持ってしても根治が難しいことを説明しました。
そこで少しづつ使われはじめたのがカバードステントです。
名前の通りステントにカバーがつけてあり、これを本幹に留置すれば、本幹以外には血液が行かないため、動脈瘤は完全に血栓化してしまいます。
理想的な方法に見えますが、いくつか問題点があります。
1)ステントの内側に膜(内皮)が張らないので常に血栓化による閉塞の可能性がある
2)ステントの両端に再狭窄がおこる
3)動脈瘤の近くにある枝が一緒に閉塞されてしまう
などです。
1)2)さえ克服すれば、枝のない大型動脈瘤には良い方法となります。
現在はもちろん脳動脈瘤に使えるカバードステントはありません。
しかし心臓領域では、血管が破れた時に補修に使うために、カバードステントがいくつか認可されています。
それを脳動脈瘤に応用してうまく行ったという報告も海外にはあります。
しかし安全な治療には閉塞の危険性を減らしたカバードステントが必要です。
キーポイントは「内皮細胞」がステントの内面を覆うことです。

内皮が張るようにするにはどうしたらいいのでしょうか?
いくつかのアイデアが報告されていますが、私にも以前から温めていたアイデアがありました。
コメント (1)
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