脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
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くも膜下出血ークリッピング術 その1 準備

2008年08月31日 | くも膜下出血
それではクリッピング術の実際について紹介します。
まず準備です。
私はこの手術を行う場合に、必ず行うことがあります。
それは
1)頭部固定をカーボン製メイフィールドで行う。
2)血管撮影ができるように、機械を準備しておく。
3)MEPモニターを装着する。
4)血管撮影は3次元のものを表示し、実際の術野と同じ方向で表示しておく。
です。
それ以外にも顕微鏡の準備やビデオカメラの準備をして、術中の記録が鮮明に残るようにしています。
「術野のきれいな手術こそが安全な手術である」というのが私の信条です

さてまず1)ですが、私が研修医の頃は頭の固定はメイフィールドではなくマジック枕というものでされていました。
これに似たものは今も体の固定には使っています。
体の下に入れたマットを体に合う形にした後、中の空気を吸引するとその形で固まるのです。
これは実に便利で、我々の施設では複雑な体位(側臥位など)には今も使っています。
しかし頭の固定は体位に関わらず全例メイフィールドです。これは私が自動脳べら固定器を使って手術をするためです。
自動脳べら固定器を使った手術は現在では主流と言える方法で、頭部はしっかりと固定されていなければなりません。
しかし通常のメイフィールドは金属でできているので、術中の血管撮影をする場合には影を作ってしまいます。
カーボン製のものは影がわずかですので、鮮明な術中画像を得ることができるのです。

2)「血管撮影の機械」ですが、これに助けられることが今までにも多くありました。
とくに頭蓋底部の大型動脈瘤やバイパスを併用する難しい症例では必需品です。
しかしどんな手術でもすぐに使えるようにしておくことが治療成績を高めるのに重要と考えています。

つぎに3)MEPですが、これについてはホームページに紹介していますがきわめてスグレものです。
http://www.e-oishasan.net/doctors_site/yoshimura/treat02.html
術中に麻痺が出ているかどうかがわかるこのモニターはクリッピング術の必需品で、自分はもう手放せません。
このおかげでこの数年は未破裂脳動脈瘤で合併症が一例もなく治療できています。

最後の4)3次元血管撮影です。私が専門医をとるぐらいまでは「いかにして2次元の血管撮影を頭の中で3次元に構成して術中のオリエンテーションをつけられるか」というのがクリッピング術のひとつの壁でした。
しかし画像診断が進歩して、3次元画像をコンピューターが構成してくれるようになり安全になりました。頭の中で構成したイメージが多少の勘違いを含んでいる場合、「おっとそうか、この血管は上に走っていたのかー」などということがありました。3次元画像の表示でこういったことはなくなりました。

これらが周辺機器の準備ですけど、大事なんですよ、こんなことが。
手術がはじまる前に準備をしっかりする。
ここがひとつの分かれ目です。

手術で実際にみてみたら血栓化した大型動脈瘤だった!とします。
「術中血管撮影は?」 「あ、用意してないです。」
「メイフィールドはカーボン?」 「あ、今日はカーボンじゃないです。」
「MEPは?」 「...今日はつけてないです。」
「3D画像は?」 「あれ、どこいったかな...」

なんてことでは、安全な手術とは言えないですよね。

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ISAT

2008年08月22日 | くも膜下出血
 治療法の選択についてです。
 開頭クリッピング術は、長い歴史があり再出血の予防効果が確実です。しかし、先に述べたように、全身状態への影響を考えなければなりません。一方、血管内治療では脳に直接触れることなく、治療ができます。しかし若干確実性に劣ります。
 これら二つの治療法にはこのような長所と短所があります。またどちらの方法もすべての動脈瘤に適用できるものではありません。それぞれの動脈瘤に対して、これらのどちらが適しているかは、専門的な判断が必要です。患者さんの年齢や全身状態に加え、動脈瘤の部位、大きさ、形などを総合的に判断する必要があるためです。
 一般的にどちらの治療が良いのかについて多くの議論がありましたが、科学的な比較研究の結果が2002年に発表されました。この試験はISAT(International Subarachnoid Aneurysm Trial)と呼ばれ、多施設が参加し、クリッピング術と血管内治療を無作為にふりわけた臨床試験です。この試験では開頭クリッピング術と血管内治療のどちらも可能と判断された2000人以上の患者さんが登録されました。結果は、術後1 年後に障害なく自立している患者さんは、血管内治療の方が有意に多いというものでした。この結果は「従来のスタンダードであるクリッピング術よりも、新しい血管内治療の方が成績が良かった」という点で全世界に大きなインパクトを与えました。
 しかし、この良い効果が、長期に継続するかどうかが不明であり、現在も長期的な調査が行われています。従って現時点ではこのISATの結果を考慮しつつ、個々の患者さんごとに治療法の選択を行っています。

 くも膜下出血で入院してもしクリッピングの説明しかない場合には、コイルによる治療ができないかどうか、もしできないならその理由を聞いてみましょう。明確に答えてもらえれば、納得がいきますよね。
 
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Matrix その後

2008年08月22日 | 動脈瘤
マトリックスを使った塞栓術をあの後2例に行いました。
一例めは前回紹介した症例です。
それを含んだ3例について感じたことをまとめます。
今回は専門家向けです。

コーティングしてあることによる摩擦がマトリックスのひとつの特徴です。
これをうまく使うと、壁にへばりつく感じでコイルを留置することができます。
これまでのどのコイルよりも意図的に偏った位置への留置が可能ということになります。
つまり動脈瘤からの分枝が温存することができるということになります。

一方で、コイル同士の摩擦があることは、コイルが自然に動脈瘤全体に広がるのを難しくします。
このためにマイクロカテーテルの位置をこまめに補正する必要があります。
もし補正が難しい場合、完全塞栓が難しいということになります。
不完全塞栓ではいくらマトリックスでも治癒率が低くなってしまいます。

つまり、この3例を通して「マイクロカテーテルの位置補正ができる状況でこそマトリックスの真価が発揮される」ことがわかりました。
上の図は3例目の患者さんです。
かなり良い塞栓にみえますが、自分としては矢印の部分にもう少しコイルを入れたかったと思います。
組織化コイルの力で完全治癒すると良いのですが...
ダブルカテーテルなどのテクニックが一つの解決策になると思います。
次回はその方法でやってみます。
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初症例!

2008年08月13日 | 動脈瘤
Matrixによる塞栓術を行いました。
上の図に示す通り、Matrixのみで完全塞栓が出来ました。
塞栓自体が完全で、かつバイオアクティブコイルであるMatrix 100%で塞栓したのですから、再開通の確率は低いはずですね!

実際に治療してみていくつか気づいたことがあります。
1)framingのときに、コイルが壁に引っかかるので全体にまんべんなく入れるようカテーテルの位置をかえながら入れる必要あり。
2)frameが均一でないと、次からのコイルも偏ってしまう。
3)このためコイル追加時にもマイクロカテの位置を変える必要がある。
4)後半はコイルの出し入れの抵抗が増す。とくに引き戻すときには抵抗が強い。
5)ネック付近で抵抗の高いまま入れるのはframeを壊す可能性がある。
などなど...

まあ、こういったことに注意すればMatrixでかなり行けそうです!
とうとうコイル治療も新時代に入りました。
ボストンさん、良かったですね。

明日も頑張ります。
コメント (2)
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Matrix has launched!

2008年08月13日 | 動脈瘤
以前に血栓化を促すコイル「バイオアクティブコイル」を紹介しましたね。
近未来のコイルとして紹介しましたが、これがとうとう日本でも使えるようになりました!
先週末、その講習会で宮崎に行ってきました。
せっかく宮崎に来たんだから観光...といきたいところですが、そんな気配は全くなく、みんな真剣です。
それもそのはず全国からコイル治療をたくさんやっているドクターばかりがきていたのです。

さて肝心のMatrixですが...一言で言えば、「使える」。
初代のMatrixは摩擦抵抗(英語でfrictionといいます)が強くて再開通もあまり減らなかったのですが、新しいバージョンはいいようです。
開発した村山先生もうれしそうでした。とうとう夢が実現しましたね!村山先生。

動物モデルに使用してみたのですが、普通のコイルとほぼ同じように使える。
挿入時に動脈瘤の壁に張り付いて回転しないこと、
引き戻すときにコツコツと抵抗があること、
不用意に引き抜くと絡まること
こういったことに注意すれば、かなりいけそうです。

実は今日と明日、動脈瘤の症例があります。
安全に使えそうであれば自分にとってのMatrixデビューとなります。
がんばります。
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広南病院 松本先生がやってきた!

2008年08月03日 | 人物紹介
先日広南病院の松本康史先生に講演に来てもらいました。
松本先生は広南病院の血管内脳神経外科の部長をされています。
広南病院は仙台市にある脳神経疾患の専門病院で全国トップレベルの施設です。
東北地方のセンター中のセンターですから症例数もダントツです。
実はもともと東北大学の脳外科は広南病院にあったそうです。
ですから関連病院というよりも、東北大学脳神経外科の分院的な存在なんだそうです。

そこの血管内治療のトップ...と聞くと相当年配の先生を想像されるかもしれませんが、全然違います。
写真のように若くておしゃれな彼は、その明るいキャラクターで病院のスタッフにも大人気!
今回もスタッフ3名を引き連れて岐阜にやってきました。
講演の方は、まず脳血管内科の矢澤先生が脳卒中に関連する超音波検査のお話をしてくれましたが、そのレベルの高いこと、画像のきれいなこと。
感動しました。
松本先生の講演は今このブログでも紹介している「脳動脈瘤の治療はどちらで行うべきか?」という話題でした。
彼が頑張ってきて、広南病院でもコイルによる治療が激増したということです。
ますます頑張ってほしい日本のエースの一人です。

翌日はうちのスタッフとともに白川郷に行き、その後は郡上おどりをやってきました。
本当に楽しかったですし、多くの刺激を受けました。
松本先生、矢澤先生、スタッフの人たち、ありがとう!
ますます頑張ってください。
これからも交流を深めたいですね!
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