脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

WFITN 2019@Napoli

2019年10月28日 | 学会/研究会
ナポリでWFITN 2019が開催されました。
今回は当科からの発表の共同演者、そして2年後に日本で開催されるWFITN 2021 (坂井信幸会長)の下見のため参加してきました。
世界中から脳血管内治療の専門家が集まるこの会では、最新の情報が発表されていました。
各国の仲間に会うこともできましたので、とても充実した時間でした。
そしてナポリは観光にもとてもいいところでした!
2年後の京都での開催が楽しみです。
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脳動脈瘤 その2 脳動脈瘤はなぜできるのか?(基礎研究編)

2019年10月25日 | 動脈瘤
「脳動脈瘤はなぜ出来るのですか?」

MRIで脳動脈瘤を診断された多くの患者さんから質問を受けます。確かに、なぜ出来るのでしょうか?
これを理解するためには、まず脳の血管の構造を知る必要があります。

私たちの脳動脈瘤は図に示すように3枚の膜で出来ています。内膜、中膜、外膜と呼ばれていて、その間に「弾性板」という裏打ち構造がああり、血管内の高い圧力に耐えられるような強度を保っています。
しかし、血管の分かれ目のところの弾性板がもともとなかったり、血管に負荷がかかると弾性板が断裂し、血管内の圧力によって徐々にふくらんでくる、というわけです。
教科書的にはこのような説明がなされていて、血圧の高い人に多いこと、家族性の場合があることなどもこのような説明であれば一応納得出来ます。



でも本当にそうなのでしょうか?もしそうなら、動物実験で脳動脈瘤を作り出すことができるはずです。
この疑問の解明にチャレンジしたのが橋本信夫先生(京都大学名誉教授、現神戸市民病院機構理事長)です。先生は大学院生の時に、ラットに血管の壁が弱くなるような薬を与えて、片方の頸動脈をしばり、高血圧を誘導したそうです。
こうすることで、残った一方の血管に負荷がかかり、理論的には動脈瘤ができそうなのです。
しかし、様々な条件で実験を繰り返しても動脈瘤は形成されず、ラットが単に死んでいくばかり。あまりに失敗が続くので諦めの境地に達していたそうです。
しかしある時、いつものように実験後の飼育中に死んでしまったラットを処分しようとしていて、「もしや!」と思い、頭を調べてみると、なんと死んだラットにくも膜下出血が起きていたのです。
そして詳しく調べると、脳の動脈には動脈瘤が出来ていて、それが破裂していたことが分かりました。
ラットの脳動脈瘤はとても小さく、その証明写真を撮るのにも苦労されたということですが、最終的に国際論文として発表されています。

実は実験には成功していたにもかかわらず、思い込みで見逃していた、という点でも教訓的なお話です。
私は国立循環器病センターレジデントの時に当時の部長の橋本先生からこのお話を聞いて感動しました。
もちろん、実験的脳動脈瘤の作成に成功したのは橋本先生が世界で初めてで、その報告は現在でも多くの研究者に引用され、同様の手法で研究が継続されています。
またその後、血管を弱くする薬を投与しなくても、片方の血管をとめて高血圧を誘導するだけでも時間はかかるものの脳動脈瘤が形成されることがわかっています。

以上の様に、「血管に負担がかかると脳動脈瘤ができること」、「血管が弱くなるとその形成が早くなること」がわかってきています。


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脳動脈瘤 その1 脳動脈瘤とはどんなものか?

2019年10月14日 | 動脈瘤
まず最初は脳動脈瘤についてお話ししたいと思います。なぜなら、この病気は極めて多くの方に見つかり、治療するかどうか悩んでいる人が多いからです。このためこれからしばらくの間は脳動脈瘤とそれに関連する様々な事柄を、紹介していきます。
脳動脈瘤はたった一つの病気でありながら、関連する情報は膨大です。一つずつ、お話ししていきますね。

脳動脈瘤というのは脳の動脈がぷっくりとふくれた状態のことを指します。ふくらむだけでは通常は症状は出ません。しかし、チューイングガムや焼き餅のように、ふくれるほどその壁は薄くなります。そして、ふくらんでいるのは動脈ですから、ドクンドクンと脈打っています。動脈の圧力はとても高いので、どんどんふくらんでいくと、最終的には「パーン!」と破裂してしまいます。(ちなみに動脈の圧力のことを「血圧」と言います。)
テレビのドラマなどで、首を切るケガをするとすごい勢いで出血する場面があります。おそらくみなさん、「大げさだなぁ。あんなに出血するはずないだろう!」と思われますよね?私もそう思っていました。しかし、あれは実は誇張ではなく、本当なのです。動脈の中の圧力はそのぐらい高いですし、脳に行く血液量はすごく多いのです。
では脳の動脈がふくらんで、破裂したらどうなるのでしょうか?そう、激しい頭痛を来たしたり、意識を失ってしまいます。多くの方はとても大変な状態になってしまうのです。

脳の動脈は、「くも膜」という半透明の薄い膜の下を走っています。白っぽくて薄く透けているので、たしかにクモの糸で出来ているような感じの膜です。その膜の下に出血するので「くも膜下出血」と言われるのです。

「なぜ、大変なことになるのかの説明になっていないですよ」という声が聞こえてきそうです。そう、その理由は、『出血の勢いがとても強いから』なのです。私たちの頭は一見、大きなものですが、実は脳が収まっている部分の容量はそれほど大きなものではありません。しかもその中には私たちの脳がしっかりと収まっていて、隙間はわずかしかないのです。そこに勢いよく出血すると、圧力が一気に高まってしまうのです。出血が続けばいずれその圧力は動脈の圧力と同じぐらいまで上がります。そうすると脳の中に血液が入らなくなってしまい、脳に血液が行かなくなる...というわけです。

まずはここまで。ちょっと怖い感じになってごめんなさい。
それでは次回は動脈瘤というものについてもう少し詳しくお話しします。

ちなみに今日は、福岡に来ています。今から手術の指導です。頑張ります!


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新たなシリーズをはじめます

2019年10月14日 | 動脈瘤
皆さんこんにちは!
このブログでは脳卒中に関する情報を時に(頻繁に?)脱線しつつ、提供してきました。2008/01/22が最初ですから、もうずいぶん時間が経ちました。このため、記載した当時と比べ医療機器や、医学自体が大きく変化しています。そこで、ここでもう一度原点に戻って、一つ一つの病気について詳しく解説していくことにしました。
皆さんのお役に立ちそうな情報を選び、出来るだけ詳しくお伝えしていこうと思います。つまり、これまでよりも深いところまで、そして最新情報も紹介します。時には医療関係者や医師のレベルにまで触れることになることを想定しています。

さて、形式としては私が外来診察室や病棟でお話しする時と同じく、自分の頭の中にある範囲で話し言葉で説明します。そして様々なエピソードや、実体験についても紹介したいと思います。脳動脈瘤のある方やそのご家族にはきっとお役に立つと思います。また高度なレベルのお話に関しては、脳神経外科専門医、特に脳血管を専門とする医師がどんなことを考えて、どのように診療しているか、世界の最新情報はどんなものかを知るための参考になるかもしれません。

記載する順序についてもある程度、構想を練ってはいますが、その時その時でトピックとなる事柄が入り込んでしまうかもしれません。また、日々の診療をしながら記載していくため、時には舌足らずになることもあるかもしれません、出来るだけみなさんが消化不良とならないよう、一旦記載してもその後に修正するなどして対応してまいりますが、もしも行き届かない点や質問ががあれば、是非コメントに入力して下さい。ただし、個人的な病気に関するご質問は、個人情報の観点からも、このブログの画面にある「Dr. Yoshimura's Website 」の相談メールから送って下さい。必ずお返事いたしますので、パソコンからのメールが受け取れるアドレスをご記載ください。

それではみなさん、どうぞよろしくお願い致します。



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