「脳動脈瘤はなぜ出来るのですか?」
MRIで脳動脈瘤を診断された多くの患者さんから質問を受けます。確かに、なぜ出来るのでしょうか?
これを理解するためには、まず脳の血管の構造を知る必要があります。
私たちの脳動脈瘤は図に示すように3枚の膜で出来ています。内膜、中膜、外膜と呼ばれていて、その間に「弾性板」という裏打ち構造がああり、血管内の高い圧力に耐えられるような強度を保っています。
しかし、血管の分かれ目のところの弾性板がもともとなかったり、血管に負荷がかかると弾性板が断裂し、血管内の圧力によって徐々にふくらんでくる、というわけです。
教科書的にはこのような説明がなされていて、血圧の高い人に多いこと、家族性の場合があることなどもこのような説明であれば一応納得出来ます。
でも本当にそうなのでしょうか?もしそうなら、動物実験で脳動脈瘤を作り出すことができるはずです。
この疑問の解明にチャレンジしたのが橋本信夫先生(京都大学名誉教授、現神戸市民病院機構理事長)です。先生は大学院生の時に、ラットに血管の壁が弱くなるような薬を与えて、片方の頸動脈をしばり、高血圧を誘導したそうです。
こうすることで、残った一方の血管に負荷がかかり、理論的には動脈瘤ができそうなのです。
しかし、様々な条件で実験を繰り返しても動脈瘤は形成されず、ラットが単に死んでいくばかり。あまりに失敗が続くので諦めの境地に達していたそうです。
しかしある時、いつものように実験後の飼育中に死んでしまったラットを処分しようとしていて、「もしや!」と思い、頭を調べてみると、なんと死んだラットにくも膜下出血が起きていたのです。
そして詳しく調べると、脳の動脈には動脈瘤が出来ていて、それが破裂していたことが分かりました。
ラットの脳動脈瘤はとても小さく、その証明写真を撮るのにも苦労されたということですが、最終的に国際論文として発表されています。
実は実験には成功していたにもかかわらず、思い込みで見逃していた、という点でも教訓的なお話です。
私は国立循環器病センターレジデントの時に当時の部長の橋本先生からこのお話を聞いて感動しました。
もちろん、実験的脳動脈瘤の作成に成功したのは橋本先生が世界で初めてで、その報告は現在でも多くの研究者に引用され、同様の手法で研究が継続されています。
またその後、血管を弱くする薬を投与しなくても、片方の血管をとめて高血圧を誘導するだけでも時間はかかるものの脳動脈瘤が形成されることがわかっています。
以上の様に、「血管に負担がかかると脳動脈瘤ができること」、「血管が弱くなるとその形成が早くなること」がわかってきています。