家から車で15分足らずの所に在るラーメン屋が好きだった。
榊屋と言った。
民放のラジオがかかっていて、
愛想の無い親父が一人と、
奥さんがちょくちょく接客していた。
しかし、10年ほど前に閉店してしまった。
周囲はラーメン店が何軒か並ぶ場所で、
中には人気店も有った。
私は榊屋の味が好きで、他の店には目もくれなかった。
しかし、人気店には列ができ、榊屋はいつも空いていた。
※
鶏ガラスープの、醤油ラーメンだ。
シナチクとチャーシューと刻んだ葱が載っていた。
煮卵や海苔も有ったっけ。もう憶えていない。
シナチクはやわらかかった。
私はシナチクの魅力をあんまり理解していないが、
榊屋のシナチクは旨かった。
これだけをつまんでビールでも良いと思った。
チャーシューは脂身がほとんど無い肉で、
しかしやわらかく、パサつかず、厚みが有った。
それで、550円とか、そんなだったっけなあ。
※
あの味が食べたい。
どうもこの頃は魚介だしとか合わせだしとかなんとかいうのが多い。
私は魚介だしのラーメンがどうも好きになれない。
味噌汁か?と思ってしまうのだ。
ラーメン屋に入って魚介だしの香りがしたら回れ右して出たことすら有る。
ラーメンの話題になると、自分の好きな味を説明して、
情報を求める。
※
私の家と榊屋の中間に長く住んでいた友人Yとラーメンの話題になった。
私が自分の好みの味を説明すると、
「東八沿いに榊屋ってラーメン屋が在りましたよね」と言う。
それよ、それ。
どうやら私は言葉で味を説明することに成功していたようだ。
あの味が食べたいのよ。
と言うと、
すぐに1,2軒、教えてくれた。
※
行ってみると、
見事に小汚いラーメン屋だった。
汚いと言ったら悪いな。ちょっと古いだけだ。
天井にも壁にも床にも貼紙にも、
時計や置物やアクリルパネルにも
油が浸み付いて黒く光っている。
ラーメン550円。
あの味が食べられるのか。
期待したわりには気が変わって、
私はチャーハンを注文した。
米、好きなのよね。
※
段落分けにも米印を使うくらい、米が好きなのよ。
※
先客は、爺一人だった。
カウンターに向かって、せっせと食べている。
カウンター用の高い椅子に不自由そうに腰掛けている。
もう14時で、店内は空いている。
足腰が悪いのならテーブル席についても店の人は悪く思うまい。
きれいに丸禿だ。
作業着を着て、ニッカボッカで長地下足袋だが、
汚れてはいない。
作業は若い者にやらせて、自分は親方、
といったところだろうか。
食事を終えて、あちこちにつかまって高い椅子からそっと降り立ち、
勘定を払う。
店の人と交わす言葉からすると、常連客のようだ。
添えた一言に私はちょっと驚いた。
「悪いけど、タクシー呼んで。」
油の浸み込んだ安っすいラーメン屋で食事をして、
帰りにタクシーを呼ぶ。
どんな生活だ。
ちぐはぐに思えた。
※
次に来た客も常連のようだった。
「整形外科行ってきたのよ。膝が痛くて」と言って、
カウンターの高い椅子に不自由そうに腰掛けた。
常連席は楽な椅子のほうが良さそうだな。
※
常連客がカウンターにとまる、居心地良いお店だと見た。
今度はきっとラーメンを食べよう。
榊屋と言った。
民放のラジオがかかっていて、
愛想の無い親父が一人と、
奥さんがちょくちょく接客していた。
しかし、10年ほど前に閉店してしまった。
周囲はラーメン店が何軒か並ぶ場所で、
中には人気店も有った。
私は榊屋の味が好きで、他の店には目もくれなかった。
しかし、人気店には列ができ、榊屋はいつも空いていた。
※
鶏ガラスープの、醤油ラーメンだ。
シナチクとチャーシューと刻んだ葱が載っていた。
煮卵や海苔も有ったっけ。もう憶えていない。
シナチクはやわらかかった。
私はシナチクの魅力をあんまり理解していないが、
榊屋のシナチクは旨かった。
これだけをつまんでビールでも良いと思った。
チャーシューは脂身がほとんど無い肉で、
しかしやわらかく、パサつかず、厚みが有った。
それで、550円とか、そんなだったっけなあ。
※
あの味が食べたい。
どうもこの頃は魚介だしとか合わせだしとかなんとかいうのが多い。
私は魚介だしのラーメンがどうも好きになれない。
味噌汁か?と思ってしまうのだ。
ラーメン屋に入って魚介だしの香りがしたら回れ右して出たことすら有る。
ラーメンの話題になると、自分の好きな味を説明して、
情報を求める。
※
私の家と榊屋の中間に長く住んでいた友人Yとラーメンの話題になった。
私が自分の好みの味を説明すると、
「東八沿いに榊屋ってラーメン屋が在りましたよね」と言う。
それよ、それ。
どうやら私は言葉で味を説明することに成功していたようだ。
あの味が食べたいのよ。
と言うと、
すぐに1,2軒、教えてくれた。
※
行ってみると、
見事に小汚いラーメン屋だった。
汚いと言ったら悪いな。ちょっと古いだけだ。
天井にも壁にも床にも貼紙にも、
時計や置物やアクリルパネルにも
油が浸み付いて黒く光っている。
ラーメン550円。
あの味が食べられるのか。
期待したわりには気が変わって、
私はチャーハンを注文した。
米、好きなのよね。
※
段落分けにも米印を使うくらい、米が好きなのよ。
※
先客は、爺一人だった。
カウンターに向かって、せっせと食べている。
カウンター用の高い椅子に不自由そうに腰掛けている。
もう14時で、店内は空いている。
足腰が悪いのならテーブル席についても店の人は悪く思うまい。
きれいに丸禿だ。
作業着を着て、ニッカボッカで長地下足袋だが、
汚れてはいない。
作業は若い者にやらせて、自分は親方、
といったところだろうか。
食事を終えて、あちこちにつかまって高い椅子からそっと降り立ち、
勘定を払う。
店の人と交わす言葉からすると、常連客のようだ。
添えた一言に私はちょっと驚いた。
「悪いけど、タクシー呼んで。」
油の浸み込んだ安っすいラーメン屋で食事をして、
帰りにタクシーを呼ぶ。
どんな生活だ。
ちぐはぐに思えた。
※
次に来た客も常連のようだった。
「整形外科行ってきたのよ。膝が痛くて」と言って、
カウンターの高い椅子に不自由そうに腰掛けた。
常連席は楽な椅子のほうが良さそうだな。
※
常連客がカウンターにとまる、居心地良いお店だと見た。
今度はきっとラーメンを食べよう。
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