テン場に戻ったら、私のテントのすぐ隣に新しくテントが設営されていた。主の女性(千葉出身、ニセコ在住の
看護士さん)が開口一番、「風速 15メートルってどんな風ですか?」。
彼女のスマホのアプリ「山の気象情報?」によると、白雲岳で風速15メートルの風が吹くとの予報が
出ているという。風速15メートルがどの程度の風なのか正確には私にはわからないが、本当にその予報通りなら、
テントはやばいだろうとは思った。この時点で12:00頃。迷いながらも、テントで連泊することに気持ちが
固まりかけていた私の決心は大きく揺らいだ。しかし、寝不足と歩き疲れてくたびれていた私の頭では
考えがまとまらず、昼食後、ひとまず昼寝した。
しばらくして、小屋の管理人さんに相談に行くと、風速はともかく、やはり天気は下り坂で、明日は朝から
雨が降る可能性が高いという。この時点で14:00頃。今ならギリギリこの日のうちに下山もできるが、
思案の末、テントを撤収、小屋に避難してもう一泊することに決めた。
白雲避難小屋に宿泊するのは久しぶり。たぶん熊騒動で、テン場が使えなかった時以来だ。
快適に過ごせるこの小屋は、登山客に人気が高く、混雑さえしなければすこぶる居心地がいい。
この日は、最終的に10名程度の宿泊で余裕があった。
小屋の石垣をすみかにしているエゾシマリス。 速い! 君はシマリス界の赤い彗星か?
マリのように弾みながら、数匹が小屋の周りを走り回っていた。
夕方、急に雲が薄くなって、再びトムラウシなど周囲の山々が姿を見せた。
あわよくばまた夕景が拝めそうなところまで天気が持ち直したが、さすがにそれは甘かったようだ。
それまで穏やかだったのに、日没直後急に風が強まった。どんな根拠で風速15メートルを予想
していたのかはわからないが、予報が当たったので驚いた。ひとりテントで粘っていた彼女に
管理人さんが最終通告、念のためテントを撤収して、小屋に避難させた。
6月30日(火) 曇り時々雨
夜の間ずっと風がゴウゴウ唸っていた。結果的にはテントが飛ばされるほどひどくなかったかもしれないが、
あれでは眠れなかったであろう。3:00 行動を開始してトイレに立った際には、トムラウシを始め周囲の山々は
見えていて、「もしかしたら朝焼けが期待できるかも…」と思わせるくらい天気も悪くなかったが、
それはつかの間、すぐに西から真っ黒い雲の軍団が押し寄せた。
準備ができて、さあ出発と靴を履きかけたら、ニセコの看護士さんが駆け込んできて、「雨が降り始めました!」。
外を見たら霧が立ち込め、視界が効かなくなっていた。あきらめがついて、雨具を着用、滅多に使わない
スパッツを装着した。途中で雨具を着用するのはけっこう大変なので、不幸中の幸いと自分に言い聞かせた。
4:35 出発。雨はぱらつく程度だが、強い風と共に吹き付けてくるので始末が悪い。おまけに霧で
視界が効かない。緑岳の稜線に出たらいっそう風が強くなった。吹き飛ばされるほどではなかったが、
風に煽られ、時々よろめきそうになる。
雨は強弱を繰り返しながら、幸いそれほどひどくならなかった。ほとんど休憩なしに歩き続け、ガレ場を下り、
風をよけられるハイマツ帯でザックを下ろして、ようやく小休止、一息入れた。第二花畑~第一花畑に
差し掛かったとき一番雨が強まった。ただ、ガス帯からは抜け出て視界が効いたので、道に迷う心配は
なくなっていた。
樹林帯に入ると雨は小降りになった。7:30 下山。
車にたどり着いて、山支度を解く頃には雨は上がっていた。ところが車内で濡れた服を着替え始めたら、
強い雨が降り始めた。その後、車で層雲峡を通過時に土砂降りの雨が降っていた時間帯もあったので、
早い時間に下山できてよかったとしておきたい。連泊をあきらめ、下山すると決めた看護士さんはどうなったか?
トムラウシへ向かうと言ったパーティは、予定通り行動したのだろうか? この時点では、明日以降の
予報も良くなかったので、計画を変更する勇気も必要な状況であったと思う。
6月29日(月) 晴れのち曇り
2:40頃、隣のテントの三人組が活動を開始した。板垣新道を緑岳方面に向かう彼らを見送って、
私は再び高根ヶ原を目指した。その時、東の空に少し雲が多めにあったが、高根ヶ原にガスはかかっていなかった。
しばらくすると、緑岳越しに空が赤く染まり始めたが、撮影場所をより先に欲張った私は間にあわず、一番いい状態を
撮影することができなかった。しかも高根ヶ原にガスが流れ始めて飲み込まれ、一面真っ白、あわや撃沈寸前。
しかし幸いにも、しばらくするとガスは消えて事無きを得た。そんな危なっかしい状況を三度ほど繰り返した。
この日は大雪ダム上にいい感じで雲海が発生し、しかもうっすら赤く染まっていたようなので、
素直にガスのかからなかった緑岳に行っていたほうが正解だったのかもしれない。
しかし、この朝私のメインの撮影目的は、「ウルップソウとトムラウシ」であったので、どうしても
高根ヶ原を優先する必要があった。なのに、撮影場所に到着直前、トムラウシがいったん雲に
隠れてしまった際には茫然自失した。幸い、しばらく待っている間にその雲は消えてなくなり、
再びトムラウシが姿を現したが、ハラハラドキドキ、綱渡り状態の撮影セッションであった。
イワウメとエゾオヤマノエンドウのコラボ。
水場付近のコバイケイソウ群落。
テントに戻り朝食。すでにほかのテントはすべて撤収されていた。
休憩後、小泉岳~白雲岳分岐方面を散策。この頃天気が安定し、青空が大きく広がったが、
のち、徐々に雲が多くなっていった。
キバナシャクナゲ群落と白雲岳。
小泉岳から白雲岳(左)と旭岳(中央奥)。
小泉岳稜線の花々も、雪解けが早かった割にはやや遅れ気味のようだ。
白雲岳分岐から避難小屋方面に少し下がった地点で撮影。緑岳(右)とトムラウシ(中央奥)。