NSP がフジテレビ系の音楽番組「僕らの音楽」に出演した際の収録ドキュメントDVD。
番組自体もかなり貴重ながら、その演奏収録時の様子が、すべてノーカットで収められているのが
すごい。スタジオの張り詰めた緊張感が画面からビシバシ伝わってくる。
「きくち伸さん」というその番組のプロデューサーがNSPファンであるからこそ実現した企画といえ、
それにしても、地上波で出演がNSPオンリーという番組は、残念ながら普通はありえない状況。
それを天野さんが自ら「余命半年」であることを打ち明けて、強引に出演交渉し、きくちさんを
動かしたという平賀さんの裏話も強烈。NSPゆかりの 瀬尾一三さん、Char さんがゲスト出演して
いるのは感慨深く、しかし、インタビュアーの鳥越俊太郎さんを含め、三人には病気のことは
伏せられていたということです。
初期にコッキーポップへたびたび出演していたのを除くと、積極的にはテレビ出演しなかったNSPが、
この期に及んで自ら進んでテレビに出たがった真意は一体なんだったのかなあ。死期を悟った
天野さんが、公共の電波に乗せて、活動した記録、証を残しておきたかったんでしょうか?
おかげで今再び、こうした貴重な映像をDVDで何度も楽しめることができるわけなのですが。
Char さんがギターで参加している『歌は世につれ』の収録シーンがやはり一番の見所、聞き所。
歌詞を間違えてやり直しはご愛嬌。おかげでその分、Char さんのギターワークが何度も楽しめるん
ですからね。多忙な瀬尾さん、Char さんのスケジュールをなんとか押さえて出演までもっていった
きくちさんの尽力にも、あらためて感謝したいところです。
二枚目には天野滋さんと鳥越俊太郎さんとの対談がフル収録されています。しかし画面は二人から
遠く離れ、音声もほとんど聞き取れません。「なんでこんなのを?」といぶかしく思ったのですが、
どうやら、複数あるカメラで撮影したうち、たった一台のフィルムだけが、保存されていたらしいんですね。
幸い、対談の内容は「スクリプト」として記録、小冊子として封入されているので、すべて把握できますし、
番組内ではそのごく一部しか使われていないこともわかります。
滞在中、北海道もとても蒸し暑くて、らしいカラッとした陽気は少なかったけど、覚悟していたとはいえ、
やはりこちらの暑さは予想以上に手厳しくて、体を慣らすのに手こずっています。
これだけ長く留守にするのは久しぶりで、用事がたまりまくっているのは致し方なく、
ある程度優先順位をつけつつ処理しているもののすぐには片付きそうにはなくて、
もうしばらく貧乏暇なし状態が続くようです。
不在中の新聞にやっとこさ目を通しました。「目を通す」といえば聞こえはいい。基本的に
読むのは、新聞小説と四コマ漫画のみ。これ以上欲張って手を広げたら、いつ読み終わるか
予測不能の泥沼に落ち込んでしまいます。それでも、目についた、気になる記事もついつい
読んでしまうので、なかなか前へ進まないのです。
朝刊の沢木耕太郎さんの「春に散る」は、元々高倉健さんが主演する映画の原作に企画されていた
作品をベースにしていて、健さんがそのまま演じられそうなボクサー上がりの無骨な初老紳士が主人公。
こちらは感情移入しやすい作風、ストーリーで、とても読みやすい。
一方、夕刊の吉本ばなな作「ふなふな船橋」はとっつきにくく、馴染むのに難儀しました。
主人公が妙齢の女性ってことも関係あるのかな。自分から進んでは、こうした女性が主人公の
小説を手に取ることはまずないでしょう。でも、今回二か月分まとめて読んでみて、ようやく
馴染んできたというか、リズミカルに読み進めることができるようになった気がします。
沢木さん、吉本さん共、もちろん作品に触れるのは初めてで、自分の好みとは関係なく、
悪戦苦闘しながらでも、読書の幅を広げられるのが新聞小説の私にとっての楽しみ方。
よほど難攻不落でないかぎり、今後も挑戦し続けましょう。
さて、今回の長い旅。朝日新聞の土曜日&日曜日の別冊版のほか、次の四作品を道連れとしました。
横溝正史 「七つの仮面」 太宰治 「きりぎりす」 森村誠一 「殺意の重奏」
夏目漱石 「それから」
「それから」は現在朝日で復刻連載中ながら、とても三作品同時にまとめ読みするのは無理だと
判断して、蔵書から持ち出して旅先で読もうと考えたものです。ただし時間切れでこれは読み残し、
次回へまわします。
横溝、森村作品は、どちらも推理小説の短編集。中学か高校生のときに読んで以来で、筋はほとんど
忘れてしまっています。短編ながら、それぞれの作品が一級品、あるいはそれに近い仕上がりで、
読ませますねえ。旅先で読むには、こうした短編がきりよく読めて、適しているのかもしれません。
ただし森村作品は相当「毒」が効いているので、読後感が「すっきり」とはいかないのが多く、
けっこう引きずりますが。
「きりぎりす」も太宰氏の短編集。二度の自殺未遂事件などを経て、作家として再出発、精神状態が
安定していた時期に書かれた小説が中心で、これも短編ながら作品の粒がそろい、ユーモアかつ
サービス精神にあふれた太宰氏のある意味別の一面が垣間見える好作品が多く、文章も全般に平易、
充実した作品集です。それでも『姥捨』は妻との心中事件を題材にした作品だし、明るめの作風であっても、
自分を卑下する言葉が次々止め処もなくあふれでてくるなど、いつしか主人公=太宰に共感してしまうのが
太宰作品の一番の魅力でしょうか。これを機に、十数冊ある太宰作品の蔵書を読み返してみます。