光山鉄道管理局・アーカイブス

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鉄道ミステリと鉄道模型のはなし38「森林鉄道みやま号」

2024-03-06 05:55:19 | 小説
 前回からだいぶ経っていますが今回は「鉄道ミステリと鉄道模型」のはなしから。

 今回はカッパノベルズの鉄道ミステリー傑作選の一編「見えない機関車」所収の井口泰子作「森林鉄道みやま号」をば。

 当時(昭和47年)廃止直前だった木曽森林鉄道を舞台にした短編。あの当時でも実在の軽便鉄道を題材にしたミステリは殆どなかったと思われますし、鉄道模型の世界でもナローブームが起きるのはこれより後ですから、ネタとしては斬新だったのではないかと思われます。

 三浦湖に向かう一日一便の森林鉄道旅客列車を舞台にそこに乗り合わせた観光客風のOLグループや謎の老紳士とその秘書、後から乗り込んできたSBCのTVクルーの人間模様を、一人旅風情の主人公のOL・津田英子が俯瞰してゆく内容です。

 本作の読みどころは何といっても森林鉄道の描写の楽しさ、車窓風景は勿論ですが如何にも廃止直前の軽便と言った風情の駅周辺の描写、或いは途中の路盤脆弱区間を列車を降りておっかなびっくり歩く様などが実に生き生きとしていて、下手な専門誌の紀行文よりも良いのではないかと思えるほどです。

 さて、ここまでのはなしで「あれっ?これは鉄道ミステリなんだよな??」と思った方も多いのではないでしょうか。

 実は本作では鉄道ミステリの定番である殺人事件も盗難事件も一切登場しません。
 津田英子がSBCのクルーに「連合赤軍事件に関連した死体の身元確認」という目的を告げ、クルーと共に探索に当たる描写、その中を縫って老紳士と秘書の謎の行動の絡みがあるのですが、実はこれすらもが一種のフェイクですし(ネタバレにはならない・・・ですよね)
 
 それでいて、普通なら読み流してしまうような人物描写や森林鉄道の沿革の説明の中に伏線が貼られており、ラストで津田英子の正体(これが探偵でも警官でもない)に呼応して真相が明らかになるという文法が本作のミステリたる所以なのでしょう。
 ラスト最後の一行を初読した時の「やられた」感はまさにミステリ的ですw

 他のミステリに比べて刺激に乏しい内容ですが、一種の紀行文としても読ませる内容でわたし的には良い読後感の一編として記憶されます。

 (写真のモデルは手持ちの車両からそれらしいのを並べただけですので実際の木曽森林鉄道とは関係ありません)

 実は本作はこのコーナーを始めた時から一度取り上げたかった題材なのですが、何といっても手持ちのモデルに木曽森林鉄道の車両がなかった為にこれまで書けなかったものです。
 つまり、今になってこのネタを出したという事は・・・

 つまり、そういう事です。
 つぼみ堂のボールドウィンは個人的に欲しかったモデルで、もしこれが手に入ったら本作のはなしを書こうと思っておりました(不純だな)
 実際に実現するまで8年待ちましたが(笑)

 本作に登場するのはDLの編成ですが、今ではこういうのが赤沢森林鉄道で保存運転がなされているのだそうです。

 その意味では本作で書かれていた事の一部が実現しているとはいえるかもしれません(どういう事なのかは「ぜひ本作をご一読してください」としか言えませんが汗)


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