<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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カフェを出て東に向かって歩いていくとアーチ状のコンクリートでできた橋梁の廃墟があった。
橋梁は北からカーブを描いて南下してきて吉野川の手前で途切れていた。
JR五新線の未完の廃墟なのであった。
JR五新線は五條から新宮を結ぶ山岳路線として計画され3分の1ほどが完成していたにもかかわらず平成になってから完全に諦められた計画路線なのであった。
一時期バスが走っていたが今では単なる廃墟と化している国鉄時代からの産業遺物なのである。

さらに先に進むと歴史的景観地区としての本領お発揮する場所に出てきた。
殆どの建物が古い町家でまさしく映画のセットのような景観になっている。
空き家も少なくないようで町を活性化し入居者を確保するための窓口オフィスになっている町家もある。
実はこういうところは不動産としての投機対象になることがあり十分に買い手を選定する必要があると他の地域でお聞きしたことがあった。
古い建物にはそれなりの価値がありある種のデベロッパーからすると魅力的なんだそうだ。
その最大の問題点は外国人が買いたがること。
東京や大阪でも都心部の高層マンションを大陸の人たちが投資目的に購入するなんて話が少なくなく、珍しい話ではなくなってしまった。
そのようなことがこういう伝統的な地域でも起こっているのだという。
一度彼らに売ってしまうと景観を守るとか伝統や文化を守ることが極めて難しくなる。
多くの弊害が生まれているところも少なくないというのだから事態は深刻になってきているのかもしれない。

ここ五條はどうなんだろうか、と考えながら歩いていくと古い建物にコラボオフィス施設が入居しているところも発見したりして意外にもこの町は色々な試みをしていることに驚きを感じたのだった。
そして頼もしくも思ったのである。
小さな川に橋がかかる。
その袂に今は閉店してしまったお餅屋さんの建物があった。
看板には「餅商 一ツ橋」とある。

「へー、ここにお餅屋さんがあったんやね。」
「どんなお餅ちやったんやろ」
とそこまで話た時にふと数年前に放送されたNHKのローカルニュースを思い出した。
奈良県五條にある古い100年も続くお餅屋さんが店主が高齢のためいよいよ閉店してしまうことになった、というニュースなのであった。

「ここ、あのテレビでやってたお餅屋さんちゃうかな」
「え?」
「覚えているか?あの毎日休ます営業していたお餅屋さんの話」
「あ〜〜〜!」

あのテレビでやっていた、
「美味そうやな」
「食べてみたいね」
「でも、もう閉店なんやて」
と話していたお餅屋さんがここにある。
その瞬間、ここへ来るのが遅かったと大いに後悔してしまったのだった。

閉店したお餅屋さん。
まだまだやっている酒屋さん。
牛乳屋さん。
などなど。
寂しくなってしまっているところもあることは事実だが、まだ生きている町。
歴史的景観地区ということで観光に力を入れるのか。
それともコラボオフィスがあるように、ビジネスの場にも活用しようとしているのか。
交通の便がそれほど良くないとは言いながら、かつては吉野や和歌山への交通の要衝として栄えた重要な街・五條。

時刻は夕刻。
西に沈みゆく太陽が赤い夕日を街道の古民家に深い陰影を与えていた。

おしまい




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