地下アイドルに関連するニュースを耳にするにつけ、過去のアイドルとの違いに思いを馳せることがある。
その昔、アイドルはやはり時代のランドマークで一種近寄りがたい神聖なものであったように記憶している。
小学生の頃、いとこのお姉ちゃんが、
「野口五郎に握手してもらった」
と感激して暫く手を洗わないという事件が発生した。
「汚いやん」
とガキだった私は思ったのだが口に出しては言わなかった。
殴られるかも知れないと思ったのだ。
それだけ昭和40年代の終わりごろのアイドルはファンから見れば近寄りがたく神聖なものだったのだろう。
私が初めて生のアイドルを見たのは大阪厚生年金会館で開催された「山口百恵リサイタル」で見た百恵ちゃん。
なぜ山口百恵のリサイタルに行くことになったのかは記憶に無いのだが、多分私が母に「見に行きたい」と言ったのだろう。
当時はチケットを窓口で買い求めたと思うのだが、人気が爆発する前のデビュー1年にも満たない百恵ちゃんのリサイタルだったから窓口購入が可能だったのかもしれない。
これで母同伴の小学生の私は初めてのアイドルで初めてのコンサートと呼ぶものに出向いたのだった。
座席は2階席の一番奥。
百恵ちゃんは遠くのステージで歌っていて鉄道模型の人形ぐらいの大きさでしかなかった。
もちろん顔はよく見えなかった。
時々ニコッと微笑むのが感じられて子供心に「素敵な人や」と感じたと思う。
詳細は忘れてしまったのだが。
このリサイタルでしっかりと記憶に残っているのは、
「音が大きいのでびっくりした」
「百恵ちゃん登場の前に別の新人の紹介があった」
「司会者がいた」
「小さな百恵ちゃんがいた」
の4つだけ。
百恵ちゃんが何を歌ったのか今になるとまったく覚えていないのが辛いところだ。
それから程なく私は大阪フェスティバルホールで「フォーリーブス・リサイタル」を見ることになった。
当時私は女性アイドルは山口百恵、男性アイドルはフォーリーブスがお気に入りだった。
そんななか、なんかのきっかけでフォーリーブスのライブに連れて行ってもらったのであった。
座席は山口百恵リサイタルとは打って変わって1階最前列右端の方。
すでに人気絶頂だったフォーリーブスのライブであんな席をどうして入手出来たのかは謎のままだ。
で、これも覚えているのは、
「観客の女の子たちの叫び声が鼓膜を破りそうなぐらい大きかった。」
「握手できるくらい目の前までこーちゃんこと北公次がやって来た時に周囲の席のお姉ちゃんたちに踏み潰されそうになった」
の2つだけ。
彼らが何を歌ったのかは記憶に無い。
アイドルというものの人気の凄まじさを体験した唯一の事例となったのであった。
ちなみに私はその後のジャニーズのタレントの中でSMAPがフォーリーブスに一番似ていると思っている。
最近は先日の東京小金井の事件のようにアイドルが身近になってきて気軽に握手会なんかが開催されているようだが、昔は握手することが難しかったようにこれも記憶している。
私が初めて握手した有名人は伊吹吾郎であった。
中学に入ったばかりの頃、行きたくもないのに母に京都で開催される呉服市に連れて行かれた。
そこにゲストとして来ていたのが伊吹吾郎なのであった。
「伊吹吾郎に握手してもらえるんやて」
と母に言われたが、その時は伊吹吾郎が何者であるのかまったく知らなかった私は握手をしたものの感動はまったくなかった。
知らない有名人との握手は初めて会った外国人との握手よりも感動が少ない。
次に握手したのは高校生の時、なんばCityの旭屋書店でたまたま開催された浜田朱里との握手会であった。
今や浜田朱里と言っても知らない人が殆どかもしれない。
浜田朱里は1970年代終わりごろのアイドルの一人だった。
確か当時彼女は「ヤングプラザ」という大阪のローカル番組にキダタローだったか紳助竜介だったかと一緒に司会を務めていて関西では知られた存在なのであった。
とりわけファンでもなかったのだがカッパ・ブックスの写真集を買うとサインをしてもらって握手ができるということで、すでに高校生だった私は話のネタと思い小遣いで写真集を買い求めサインと握手をしてもらったのであった。
ここまで書いて思い出したのだが、ホントに初めて握手をしてもらった有名人はその名前すら忘れてしまった南海フォークスの選手なのであった。
それは私が小学4年生頃のこと。
大阪の狭山遊園地にあったプールで遊んでいた時のこと。
イベントで南海フォークスの若手選手3人のインタビュー会があった。
この時、私はどういうわけか選手の一人からサインボールを受け取り握手をしてもらったのだが、それが誰だったのかもはや思い出すすべもない。
サインボールも手元にない。
その後、社会人になってからも有名人と握手をする機会があったが、やはりそれは特別なものだったように思う。
そういう機会が特別だったからこそアイドルやタレントには価値が有るように思う。
簡単に目の前で会ったり、握手できる相手。
現在のアイドル。
もしかするとそれはアイドルとは言わないのではないだろうか、と思うことがある。
憧れで手の届かない世界。
夢を売るのが彼らの商売だ。
そんな夢をリアルにして頻繁に出会わす「身近なアイドル」の存在は小銭稼ぎになるかもしれないが何か大きなものが欠けているように思えて仕方がない。
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