東京青山の根津美術館で「酒呑童子絵巻」という展覧会が開催されているのを知ったのは会期もあとわずかとなったとある日曜日。
NHK Eテレで放送されている「日曜美術館」を観ていたときなのであった。
酒呑童子で思い出すのはもちろん「大江山」。
その「大江山」で思い出すのは幼い頃に父の運転する自動車で母と三人、城崎温泉へでかけた時のことだ。
当時、道路事情はあまりよくなく、舞鶴自動車道も京都縦貫道もなかった。
なので多分国道をチンタラと北上していったのだと思う。
大変な田舎で途中の景色はほとんど記憶に残っていないのだが、山道を走っているときににわかに父が話し始めた大江山の鬼の話が車窓から見る鬱蒼とした山の景色と融合して、
「えらいところに来てしまったもんだ」
と子供らしくブルブルしてくる恐ろしさを感じたのだった。
まだ、鬼が住んでいるような気がした。
そんな父が突然に、
「蕎麦を食べよう」
と言い出した。
大江山はすぐ近くの出石と並んで蕎麦の産地であり、美味いそばを食べさせるところがあるという。
出石程有名ではないから店がなかなか見つからなかったが、やっとこさ見つけた店が凄い屋敷を店舗にしているところで鬼退治の幻想と相まって記憶に焼き付いてしまっている。
そこは広い座敷で立派な襖絵が描かれていた。
蕎麦屋というよりも重要文化財庄屋屋敷みたいな感じであった。
出された蕎麦も「美味い!」と父と母が言うものだから、味なんてわからないガキの私も美味しいと思い込み、そのまま脳に刷り込まれて今日に至っている。
そもそも酒呑童子の話はビデオゲームなんてなかった時代の私たちの世代までは誰もが知っている話だったんじゃないかと思う。
源頼光を隊長とする征伐隊が都から派遣され鬼どもを退治するという物語で、そもそもそういう話はどういう事実がベースになって誕生したものなのか、今回この展覧会を知るまですっかり忘れていたのであった。
テレビによると会期終了まで時間があまりなさそうなので面白そうだが見ることはできまい、と思っていたら横浜への出張が入り、しかも予定していた2日間のうち二日目のスケジュールに大きな空きができたので都内へ出てしっかり鑑賞することにしたのだった。
今回の展覧会では酒呑童子がどういう事情で誕生して、酒飲みになってグレて山にこもって手のつけられない鬼になったのか、というところから源頼光一行に成敗されるまでを描いた珍しい室町時代と江戸時代の絵巻物が展示されていた。
絵巻物のコンディションはすごくよく、絵が緻密で解説もわかりやすく大層楽しめる内容なのであった。
難を言えば展示物が少ないことで、できればもっと関連の資料や、それに図録の販売などもしていただきたかったところだ。
ということで、帰りはコロンバンの本店で好物の原宿ロールを買って帰ろうと思って歩いていたらカミさんから「ぜんざい作りました」メールが届いたのでお土産の原宿ロールは今回はパス。
平日なのにインバウンドの影響か多くの困ったさん系外国人旅行者が屯しているなか山手線に乗って品川方面に向かったのであった。
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