関西で電車に乗っていると「京都へは電車行きましょう」という吊り広告が垂れ下がっている。
JR、阪急、京阪、近鉄といった京都に乗り入れている鉄道会社はもちろんのこと阪神、南海、大阪メトロなんかも名前を連ねていて、
「あ、仲良しだね」
と思ったりしている。
このライバル企業がタッグを組まないと行けないほど今、京都は観光客で溢れていて地元民をはじめ、京都を観光地だと意識しない近隣の大阪府民や奈良県民、滋賀県民からすると甚だ迷惑な状態になっているのだ。
例えばJR京都駅を降りると、そこは外国。
英語さえ通用しない国の人々がどどドドドと押し寄せていて、駅前ロータリーからバスに乗るもの困難な状態だ。
とりわけ各観光地へ向かうバスの乗り場は悲惨な状態で、
「京都には住めない」
と言っても過言ではない有り様である。
というのも、京都は都市ではあるものの地下鉄はたったの2路線(地下を掘ることは歴史を掘ることで地下開発は容易ではない街)。
京阪、阪急も走っているのは限られたエリアなので畢竟観光地巡りはバスかタクシーということになる。
ところが地元京の市民もバスを利用しないと買い物、病院、役所、そして通勤をすることができないのでバスが観光客で満員になっているのは死活問題でもある。
京都は観光業が重要な収入源ではあるものの、住んでいる人からすると観光客の溢れんばかりの増加は普通の生活を妨げる迷惑以外の何物でもない。
ちなみに大阪人の私からしても迷惑な状況だ。
また京都より古い都・奈良。
インバウンドの初期の頃、奈良は京都ほど知名度がない上に首都であったのが1400年も前ということになると日本の歴史に精通していない限りはあまり関心が持たれるところではなかった。
京都に観光客が溢れていても奈良は平穏なのであった。
ところが最近、欧米人を中心に奈良のインバウンド客が激増している。
私は週に2日ほど奈良市内で仕事をしていることもあり、この観光客の皆さんに遭遇することが日常である。
とりわけ奈良公園周辺は京都に負けず劣らず外国人で溢れている。
しかも困ったことにここには京都にはいない野生の鹿が屯しており、おまけに人に馴れ馴れしいことから物珍しさも手伝って観光客が鹿にちょっかいをだし、それがSNSで拡散され、
「奈良は世界でも珍しい鹿と戯れられる街」
として色んな輩が訪れて来ているのだ。
彼らの大部分は目的地は東大寺であったり春日大社であったりするようだが、実際はそんな文化財はどうでもいいようで鹿と一緒に写真を撮ることに熱中しているのだ。
鹿は鹿で色々とかまってくれる観光客にすり寄っていくのだが、たまにムカついたのか角で観光客を築き上げようとする鹿もいたりして、人間と鹿が絡み合い凄い状況が展開されている。
先日、東大寺参道を歩いていると、私にさえ鹿が寄ってくるので、
「おい、わしゃ観光客やない、あっちへ行き、鹿せんべいなんか買えへんど」
と追い払うこと度々なのであった。
ただ奈良のインバウンド客は奈良市内が主たるところで、他の地域ではあまり目にすることはない。
先日、明日香村へ行った時はガイドブックを持って熱心に遺跡巡りをしている一人の白人女性がいたが、大声でわめきながら石舞台に落書きをしそうな警戒を抱かせる大陸系団体客なぞちっともいなかった。
ここは昔ながらの修学旅行生や遠足の子どもたちの姿が目立ったのであった。
とはいうものの、明日香村や橿原市というような日本の古代歴史が輝いている地域も安心はできない。
このインバウンド客を暗に寄せ付けないようにしているのか、明日香村の中の遺跡の説明プレートに英語や中国語といった外国語がちっとも明記されておらず、日本人以外には不親切なことになっていたが、これは奈良独自の自己防衛なのでは、と思った次第だった。