自宅のトイレの引き戸が開きにくくなった。
取っ手を引くと重くて「ズズズズズズズ〜」っという音がしていたのだ。
この音は昨年夏ごろより鳴り始め、徐々に悪化をたどってこの夏ぐらいからは、「ギスギスギス、ギス」というように音も変わってきたのだった。
「これは戸車かレールの問題だろう」
と思っていたが口には出さなかった。
もし出したりすると、
「修理して〜」
と家人に言われて面倒くさいDIY作業をしなければならなくなる。
DIYはお父さんの作業なのだ。
したがって、
「掃除したら治るんちゃうん」
とレールに溜まったゴミを原因としていたのだった。
これはある程度的を射ていた。
というのも、昨年暮れに掃除をしたところ、少し動きも音も改善したからだ。
引き戸式の扉はこまめにレールを清掃する必要がある。
しないと動きが悪くなる。
世の中にはこの部分に蝋を塗る人もいるけれども、そこまでする必要は無いと思っている。
で、清掃で直したつもりに自分もなっていたものの、やはり根本的に戸車がいかれていたようで、先月ついに扉がレールから脱線するというトラブルがあり、戸車交換作業をすることになった。
電車の脱線も危険だが、戸車が脱線すると床が傷つき、下手をすると倒れてくることも考えられる。
脱線はいずれにせよ危険だ。
扉を慎重に外して横に倒し、戸車をチェック。
ホコリが随分と溜まっていた。
掃除機と針金で真っ黒になっているホコリを清掃して左右2つの戸車を扉本体から取り外してチェックしたところ、片方の戸車の車輪は難なくコロコロと回るのだが、もう片方が回らない。
何かが噛んでいるようでホコリをとっても動かない。
もしかするとホコリが塊になって車輪と車輪枠の間にはまり込み、動かなくなっているのかもしれない、と思ってゼムクリップを分解した細い針金の先で狭い隙間を突っついてみた。
確かにホコリは入っていたものの、その奥には目視できない金属製の何かがあって分解しない限り確認することも排除することもできないことが明らかになった。
戸車というのは車輪を台車にカシメて固定していることが多く、壊さない限り分解することはできない。
車輪が動かないことを確認するために戸車そのものを破壊しなければならないのであれば、これは修理できないと同意義であり、私はこの時点で、
「馬鹿者!」
とつぶやいていたのであった。
結局、新しい戸車ユニットを買い求めることにして、壊れた戸車の側面に刻印されている品番をインターネットで叩いてみた。
アマゾン、モノタロウ、ミスミ、楽天の4社があれば、いずれかが扱っているだろうと思ったのだ。
ところが、いずれのサイトも扱っていない。
扱っていないのは、作っていたメーカーがすでに倒産して存在せず、したがって小売店が在庫を持っていない限り入手できないことがわかったのだ。
「なんと!」
戸車どころか引き戸そのものを作り直さなければならないのでは、という疑問が沸き起こった。
戸車一つで扉交換とは大げさすぎるではないか。
そもそも我が家は大手ハウスメーカーS社の建物なので、部品ぐらいは系列のメンテナンス会社でなんとかなるんじゃないか、と一瞬考えた。
半年に一回送ってくるユーザー会誌兼カタログなんかに掲載されているのかもわからない。
でもでも、なのであった。
2年前に台風で傷ついた外壁の小さな傷と、換気扇出口の汚れについて、サポートの営業マンに相談したところ、一気に外壁全部の塗替えに発展したことがあり、うかつに相談すると余計なお金がかかりそうに思ったのだ。
戸車修理が引き戸製作になり、引き戸製作が引き戸枠も併せて製作で、さらに発展するとその周辺の壁面と床、壁の改修にと巨大化することも考えられないこともない。
まさか戸車ひとつで建て替えになるとは考えられないが、相手は凄腕営業マンだけに注意が必要だ。
尤も2年前の外壁の塗り替えは正解であった。
保証期間の延長には必要であったし、足場を組んだおかげで屋根瓦の一部が欠損していることもわかった。
放っておくと雨漏りの原因になったとも考えられなくはない。
「これ、割れているのを見たのは初めてです」
と敏腕営業マンのMさんも言っていた。
住宅メーカーは屋根の素材についてもしっかりと開発検証しているので、こんなケースはほとんど見たことがないという。
多分台風で何かが飛んできてぶつかったのだろうが、もしかするとロミュランの宇宙船からのフェーザー攻撃にあったのかもわからず、依然として原因は謎なのであった。
スタートレック・オリジナルシリーズの1シーンで、
「宇宙で最も硬い物質である電磁スクリーンがご覧のように。(バキッと手で割る)粉々です」
というスポックのセリフのシーンを思い出していたのだ。
ともかくそういうこともあり、建て替えを回避するためにも戸車は自分でなんとかしたいと思った。
S社の住宅部品ぐらいホームセンターで売られていないだろうか。
と、私は近所の、といっても自宅から8kmほど先にある超大型ホームセンターを訪れたのだった。
するとやっぱり「Sハウス、Sハイム、Dハウス対応品」などと書かれているユニット型の戸車を発見した。
倒産したメーカーの製品はないものの、その代用になる製品が作られていたのだ。
早速私はそれを買い求めようと陳列から外して価格を見て愕然とした。
なんと1セット1400円弱。
絶句の一言なのであった。
戸車ごときで、信じられない高額だ。
1400円といえば吉野家の牛丼を3杯は食べられる金額である。
はま寿司なら14皿は食べられる高価な価格だ。
いくら円安と物価高とはいえ、この価格は戸車業界の異端児といえよう。
そもそも戸車なんか一個100円から300円ぐらいで、いくら高くても500円ぐらいと思っていた。
ところが回転寿司14皿分となると、もしかするとプラチナでできているのではないかと疑ったぐらいだ。
そもそも今回は動く方の戸車も一緒に交換しようと決意してホームセンターにやってきていた。
なんといっても新築約20年弱。
一度も戸車なんぞ交換したことがない。
したがって両方とも新品にして気持ちよくしようと思っていたのだが、両方のために2つ購入すると2800円もするではないか。
2800円といえばピーチエアのバーゲンチケットで関空から新千歳まで飛んで行ける金額だ。(片道)
そんなこともあって、1個だけ買い求め家に帰って交換したのだ。
結果、引き戸はスムーズに動くようになった。
早く交換すべきなのであった。
早く交換しなかったためにレールに少しばかり傷がつくことになったが、これは交換せずにいるつもりだ。
このレールはハウスメーカーに発注する必要があり建て替えに発展する可能性がある。
ともあれ倒産メーカーの戸車探しは結構大変な作業なのであった。